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第7話

 それでもしばらくの間は、僕も智志への気持ちが何なのかはっきりした答えが見つからなくて、もやもやしていた。もやもやはいつしか、僕の心の中でどんどん大きくなって、しまいには無視出来なくなっていた。  高一の夏休み。千明と三ツ谷と智志と僕で、映画を観に行った時だった。話題のアクション映画を千明が観たい、と言い出して、三ツ谷と智志の部活が休みの日に、4人で出掛けた。暗闇の中、激しいアクションシーンが映し出されるスクリーンを観ていたら、隣に座っていた智志が僕の耳元に顔を寄せてこう尋ねてきた。 「……なあ、公彦のコーラ飲んでもいい? 俺の飲み終わっちゃったんだけど、喉渇いちゃって」 「あ……うん、いいよ」  智志は僕の椅子のカップホルダーからカップを取り出すと、ストローに口を付けて飲み出した。端正な横顔が、スクリーンの中の爆発の閃光で闇の中に浮かび上がる。 ――間接キス……  僕の頭の中にそんな言葉が突然思い浮かんだ。思い浮かんだ途端、悪い事を考えているような気がして、僕は慌てて正面を向いた。 ――こんなの、友達同士なら普通だろ? よくあることだろ? なにドキドキしてるんだよ。  僕の胸の鼓動は激しくなって、隣に座ってる智志に聞かれないかと心配になる。幸い大音量のアクションシーンが続いていたので、智志には気付かれなかったようだった。 ――もしかして、僕……  はっきりと自分の気持ちに気付いてしまった瞬間だった。   5年も一緒にいるからこそ、素直になれないこともある。  僕はそう思っていた。  いつも一緒にいるのが普通で、当たり前すぎて、だから今の関係を壊すのが怖くて、それで僕は智志に自分の気持ちを素直に向けられなくなってしまった。  本当は智志が好きで好きでたまらないのに。 「公彦ってさ、智志にちょっと冷たい時あるよね?」  ある日ふと千明が僕に言った一言。 「そうかな……?」 「まあ、僕もみっちゃんに冷たくしちゃう時あるから、人のこと言えないんだけどさ。あれはあれだよね、ほら、好きだからつい苛めたくなっちゃうっていうの?」  好き、という言葉に僕の心臓が跳ね上がる。何でもないような顔を千明に向けて「ふうん、そんなもん?」と興味なさそうに答えた。 「お互い長い付き合いになってくると、自分を飾らなくて済むから、態度が冷たく見えちゃうってのもあるかもねー」  千明はそう言うと、えへへと笑った。幼い顔が余計に可愛らしく見える。彼は時々、僕がビックリするほど鋭い発言をする。つい童顔で可愛らしい表情に騙されてしまうけど、本来の彼はすごく大人びた考え方の持ち主だった。

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