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第10話
智志に引っ張られるようにして、砂浜をしばらく歩く。僕はまだ足が痛むので左足を庇いながら、なんとか彼について行った。
「どこまで行くつもり?」
少し行ったところに、岩場があった。そこまで行くと、智志は座り込む。
「……座ったら?」
どうしたらいいのか分からなくて、じっと立ったまま智志を見ていた僕に言う。僕は智志の隣に腰を下ろした。
「急にどうしたの?」
「んー、ちょっと静かなところに行きたかったんだ」
――僕と二人で?
と、聞きたかったけど、ぐっと堪えて、その言葉を飲み込んだ。
「みんな心配しないかな?」
僕は今まで歩いてきた方向を見る。遠くの方で、わいわい騒いでいる声と、きらきらと輝くような花火の明かりが見える。
「あいつら花火で盛り上がってて、俺たちがいなくなってるのなんて、気付かないよ」
「……そうかな?」
「そうだって。心配すんなよ」
目の前に何かが差し出された。
「これ……」
「線香花火、やろうぜ」
僕はすぐ隣に座っている智志の顔に目を向けた。月の光に照らされた彼の顔は優しく微笑みを浮かべていた。僕は彼の手から線香花火を受け取る。
「……懐かしいな。線香花火」
「だろう? そう思ってさ……」
智志は僕の手に握られた線香花火の尖端に火を点けてくれた。しゅうっと音がして間もなく、ぱちっぱちっと微かな光の粒が宙に舞う。
「こういうのは静かなところでやるのがいいと思わないか?」
「……そうだね」
確かに大騒ぎしている中で落ち着いて座って線香花火なんてしていられない。智志が言うように、静かな場所でしみじみと楽しむ方が良かった。そして、好きな人と二人きりで楽しむ線香花火は、もっと良かった。
――嬉しい。
何でもないことでも、智志と二人きりなら、何倍も嬉しく感じた。
しばらくしてからみんなのところへ戻ると、智志が言うように、僕たち二人が途中でいなくなっていたことに誰も気付いていなかった。
「みっちゃん、みっちゃん! 見て、見て!」
相変わらず千明は一人でテンション高くはしゃぎ回っている。そしてその隣で呆れたように小言を言い続ける三ツ谷。それを隣でからかう友野。岡本と斉藤は少しだけ離れたところで、花火をしながら、携帯で写真を撮り合っている。そんな彼らの様子をスケッチし続ける五十嵐。
「そろそろ9時になるから、お開きな」
智志が声を掛けると、千明が「えー! まだ花火あるよ?」と不満げに言い返す。
「明日の夜もう一回出来るだろ?」
「オッケー。じゃあ明日は全部残らず使わないとだね」
「千明、お前今日みたいにふざけて遊ぶなよ?」
「はいはい、みっちゃんってば、もう小言ばっかり。僕の保護者じゃないんだから」
「俺はお前の保護者みたいなもんだろ?」
花火の残りを纏めてビニール袋に入れて片付ける。遊び終わった花火の屑は水を入れたバケツの中に突っ込み、宿泊所の入り口脇に置いた。宿泊所の世話役のおじさんが、片付けてくれるという話だった。
「明日は8時半に朝食、10時から午前中一杯、今期の学校行事についての計画表をまとめるから」
僕は明日の午前中の予定を告げ、一同解散となった。
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