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第11話
8.
翌日の午前中、当初の予定通りに、朝食の後で年間行事を決めて計画表を作成する。とは言っても、毎年大体やることは決まっているので、それを再確認をする程度のことだ。一番重要なのは、10月に行われる文化祭についてだった。中等部・高等部合同で開かれる文化祭は、学園内だけではなく、外部のお客さんも毎年楽しみにしていて、多くの来校者が訪れる。詳細は後日決めるが、大まかな部分、例えば今年の文化祭のテーマなどはここで決めておかなくてはならない。大変だけれど、ここである程度計画を固めておくと、後が楽になるので、手は抜けなかった。
午前中一杯しっかり議論したお陰で、僕がここまでは決めておきたい、とあらかじめ考えていたところまでは決められた。今年の執行役員はみんなやる気もあるし、思った事を溜め込まずにどんどん口にしてくれるから、斬新なアイデアがたくさん出たように思う。
とりあえず、今回の旅行の目的は果たしたので、後はもう明日帰るまでお遊びみたいなものだった。まあはっきりお遊び、なんて言えないから、執行役員同士の相互理解を深めるための懇親行事という建前ではある。
昨日はみんなでビーチバレーをしたが、今日は各自自由に過ごしている。僕は左足が相変わらず痛かったから、砂浜の少し離れたところに座って、みんなの様子を見ていた。千明と三ツ谷は二人でボールと戯れている。岡本と斉藤は砂まみれになりながら、お互いを砂に埋めて遊んでいた。智志と友野は海で泳いでいて、そんな彼らを五十嵐は今日も変らずスケッチしていた。
――暑いな……
頭からタオルを被って、体育座りのまま、智志が泳ぐのを見つめる。
キラキラと光る波しぶき。その中を智志は力強く泳いでいく。
しばらく泳いだ後、友野と一緒に智志は砂浜に戻ってきた。その足元にビーチボールがコロコロと転がってくる。智志は反射的にそのボールを拾い上げた。その動きには無駄がない。サッカー部でいつもやっている動きだからなのだろうか。無意識のうちに体が反応しているように見えた。
「すいませーん!」
髪の長い女の子が手を振りながら智志に駆け寄る。
――あの子、どっかで見たような……
「あれ? 昨日の人ですよね? ボール拾って貰うの二度目ですね。ありがとう」
「ああ、そう言えば、昨日もここで遊んでたね」
智志が手渡したビーチボールを手にすると、女の子は可愛らしい笑顔を彼に向けた。
「地元なんですか?」
「いや……旅行で来てるんだ」
「やっぱり。なんか地元の男の子たちとは違うって雰囲気だったから」
「そう?」
「あの……私達と一緒に遊びません?」
ずきん、と僕の胸が痛んだ。僕は目を伏せる。智志があの女の子と一緒にいるのを見ているのが辛かった。
――可愛い女の子と一緒に遊ぶ方が楽しいに決まってるよね……
すくった砂はさらさらと指の間をすり抜けて落ちて行く。
僕のこの報われない思いも、砂と一緒に落ちて行く。
波の音だけが、僕の正気を保ってくれる。
「公彦」
顔を上げると、智志が立っていた。
「……どうしたの? あの子と遊ぶんじゃなかったの?」
「遊ぶ? あの子? 何の話?」
「髪の長い可愛い女の子。昨日も話してた」
「なんだ、公彦はああいう子がタイプか?」
「違うよ! 僕は……」
思わず大声を出してしまい、僕は慌てて口を手で塞ぐ。
「ご……ごめん、大声出したりして」
智志は驚いた顔で僕を見つめていた。僕は決まり悪い表情を浮かべて謝ると、立ち上がった。
「……ちょっと気分が悪いから、部屋に戻るね」
「あ、おい、公彦……」
――僕は、醜い。……あの女の子に嫉妬してたんだ。智志を取られちゃうと思って。
僕は痛む足を引き摺るようにして、部屋まで戻る。部屋に入った瞬間、体中の力が抜けたみたいになって、ベッドに倒れ込んだ。
――僕とあの女の子じゃ、最初から勝敗なんて決まってるよね。僕が智志に好きになって貰える可能性なんか全然ないもん。
僕は枕に顔を埋めた。
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