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迫りくる不穏
「黒耀、ありがとう。もう大丈夫。今日は村の中心で買い物をしてくるね」
このままでは何時までも自分を抱き締めていそうな彼の腕から少し名残惜しいが抜け出すと身支度を整えていく。
村の外れにひっそりと暮らしている僕たちは村の中心にある市場に買い出しに行く必要があった。
「一人で問題ないのか?」
付いていきたいという雰囲気を出しながら彼が尋ねる。
僕だって黒耀と共に行きたいが、そういうわけにもいかない。
悪魔は人間とは違ったオーラを出しており、身体的特徴が例え人間と同じでも、その者に近づくだけで直ぐに悪魔だと判別出来てしまう。
彼もそれを重々承知しているはずなのだが、毎回僕が出掛けようとすると必ずこうして聞いてくるのだ。
「またアオと一緒に行ってくるから心配ないよ。帰ってきたら御飯にしようね。それじゃあ、行ってきます!」
「ああ、気を付けて」
今日もベッドから上半身裸で出てきた彼が、そのままの格好で玄関まで見送りにきてくれた。
あまり村人に会わないように、そしてアオの散歩も兼ねて普段は森の中を通って村の中心地に行く。
しかし、今日は少しでも早く帰って彼に会いたくなり、村の中を突っ切って行くことにした。
村人に話かけられないように早足で家々を通り過ぎていく。
村人たちは僕の「華の指輪」が半分黒くなった訳を、悪魔に呪われたせいだと思っていて、自分も呪われては堪らないとばかりに近寄ってこない。
昔は優しく接してくれた村人達の態度が急変して、最初は寂しさを感じていた。
しかし、彼らは別段僕に何かを仕掛けてくる訳でもなかったし、黒耀とアオがいてくれたから次第に気にならなくなっていった。
それに比べて村人の中には少数だが厄介な者たちもいて...
「よー、魂が真っ黒な真白ちゃん。久しぶりじゃねぇか。漸く俺と遊んでくれる気になったのか?」
そう、まさに彼のような者のことである。
「かなりの上玉なのに、本当に勿体ねえ。呪われてさえいなければ直ぐにでも俺がお前を貰ってやるのになあ」
「生憎僕には好いている者がいますから。貴方と遊びもしませんし、ましてや結婚なんてもっての他です」
「それそれ。お前のそういう強気なところも好きなんだよ」
余計に相手を煽ってしまったようで、彼は僕を後ろから抱き込むといきなり服の中に手を突っ込んできて、厭らしい手つきで胸元をまさぐってくる。
「確かお前もうすぐ20歳だったよな?だったら遊べるのもこれで最後か。なら最後くらい突っ込んでも良いよな?お前も経験なしのままあの世には逝きたくないだろ?」
相手は手を後ろの方に回し、その手を僕のズボンの中に入れたかと思うと蕾に指をグリグリと当ててきた。
今までも様々なちょっかいをかけられてきたが、流石にここまで手を伸ばされたことはなかったため焦り始める。
でも、それよりも僕の焦燥を掻き立てたのは、確かに自分は明日で20歳を迎えてしまうということ。
それが何を意味するか、自分でも重々承知していたつもりだ。
それでも言葉に出されると胸の内からごちゃ混ぜになった感情が溢れ出てくるようだった。
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