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第3話
3.
それからの俺は、放課後に図書室で池永に会うのが日課になった。
不思議なことに、池永は俺の苦しい言い訳を信じてくれた。後から自分が言った言葉を思い返すと、顔から火を噴きそうなぐらい恥ずかしい。どうしてあんなことを、まともな顔で言えたんだろう? 恥ずかしさのあまり、壁を思い切り蹴り飛ばしたかった。でも、池永は俺を笑ったりしなかった。ただ一言「僕は毎日、放課後は図書室にいるから」と答えただけだった。
だから、次の日から俺は毎日、放課後図書室に行った。
池永が言った通り、図書室に彼は毎日来ていた。俺たちは下校時刻になるまで、書棚の間をぶらぶらと一緒に歩き回ったり、部屋の隅の窓際にある机に座って話をしたりした。最初の頃はお互いどこか遠慮して緊張したような、距離を感じる妙な空気があったけど、それもほんの少しのことで、あっという間に俺たちは親しくなった。まるでもうずっと長い間、友達だったみたいに。
池永は読書家で、たくさんの本を読んでいた。そして俺に色んな本の話をしてくれた。
「……僕、小さい頃からよく入院してたから、本をたくさん読んでたんだ。ベッドの上にいると、本を読むぐらいしかすることないから」
俺が本についてよく知ってるね、と褒めたら、彼は頬を微かに染めてそう答えた。
池永は本がとても好きで、本の話を始めると、真っ白な顔を上気させて一生懸命に話してくれた。俺はそんな彼の顔を見るのが好きで、つい質問攻めにしてしまう。でも嫌な顔をするでもなく、俺のつまらない質問にも真剣に答えてくれた。
「……池永は何の病気なの?」
ある日、俺は思いきって尋ねてみた。
図書室で最初に話しかけた時、あまり病気について触れて欲しそうじゃなかったから、今まで質問するのを控えていたが、一緒に過ごす時間が長くなってきたので、もう大丈夫かな、と思って聞いてみたのだ。
池永は寂しい表情を浮かべた後「僕ね、心臓が弱いんだ」と言った。
「生まれつきの病気。……手術も何回かしたんだけど、今の医療だとこれが限界だって言われたんだ」
「……治らないの?」
「うん」
何だかこれ以上聞いたらいけないような気がして、俺は聞くのを止めた。
「あのさ、池永のお勧めの本とかある?」
「どうしたの? 急に本を読む気になった?」
「いつも池永が楽しそうに本を読んでるから、俺も読んでみようかなって思って」
「じゃあ、僕のお勧め教えてあげる」
池永は嬉しそうな笑顔を浮かべて、すぐに立ち上がると、書棚の前に行く。そして、何冊かお気に入りだという本を引っ張り出した。
「これ読んで僕に感想を教えて? 分かった?」
「う……うん。分かった」
にこにこと可愛らしい笑顔を浮かべる池永を見て、俺は胸がぎゅっと苦しくなるのを感じていた。
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