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第5話
5.
それから2週間。池永は図書室に来なかった。いや、図書室に来なかっただけじゃなくて、学校を休んでいたようだ。
俺は4組、あいつは2組だから、クラスが違うし、わざわざ休んでるのかどうか、聞きに行くのは憚られた。休み時間にトイレに行く時、さり気なく2組の教室を覗いて見たりもしたけど、池永の姿を全然見かけなかったから、多分、休んでいたんだろうと思う。
本当は休んでいるのかどうか、誰かに聞けば良かったんだろう。でも、何となく聞きたくなかった。聞いたのが原因で、池永に変な噂を立てられたら悪いと思っていた。いや、そうじゃない。変な噂を立てられたら困ると思っていたのは俺自身かも。きっと本心はそうだったんだろうな。だけど、池永を言い訳にして、俺はあいつが休んでるのかどうかを確認しなかった。
今更だけど、あいつの家がどこなのか聞いてなかったのを後悔した。
休んでるんだったら、せめて見舞いぐらい行ってやれば良かった。だけど、俺はあいつの家がどこにあるのか知らなかったし、調べようともしなかった。
面倒がらずに調べるべきだった。きっと俺が見舞いに行ったら、あいつは喜んでくれただろうから。
それが分かってたのに、そうしなかったのは、心のどこかで怖いと思っていたからだ。
気が付くと、俺はすっかり池永にはまり込んでいた。
図書室であいつが本を話をするのをじっと聞いている間、俺の目はあいつから離されることはなかった。少し長めの前髪から覗く、黒目がちの瞳。真っ白な肌。華奢な身体。目を閉じると、池永の恥ずかしそうにはにかんだ控えめな笑顔が浮かぶ。
俺は頭の中で、池永を何度も抱き締めて、彼の唇にむしゃぶりつくようにキスをした。そして、そのもっと先まで……想像していた。
想像の中の彼は、俺の行為を喜んで受け入れてくれていた。透けるような白さの彼の肌にそっと触れる。彼は何も言わず、目を閉じて俺に身体を任せてくれる。俺は彼を身体の下に敷き、脚を大きく広げると、彼の中に俺自身を入れる。瞬間、何とも言えない快感が全身を貫く。俺はたまらなくなって、無我夢中で腰を動かした。動きに合わせて、池永は甘い吐息をその桜色の唇から堪えきれないように漏らす。
俺はいつしかそれが現実なのか、ただの夢なのか分からなくなっていた。
――これはただの妄想だ。
毎回自分の思いを彼の中で果たした後、俺は我に返って自分の淫らな妄想を恥じた。彼はそんなんじゃない、と何度も思い込もうとした。だけど、駄目だった。俺の中で池永馨という存在はどんどん大きくなっていて、そして、もう彼を片時も忘れられなくなっていた。
俺はやはり彼に魅入られていたのだろう。
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