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第7話

7.  俺は池永の家に遊びに行く、と約束したが、それからしばらくの間、遊びに行くのはおろか図書室にも行けなかった。  11月の半ばに行われる文化祭の実行委員に選ばれてしまったのだ。俺は部活もやってなかったし、何の委員会にも所属してなかったので、ちょうどいい人材だと選ばれてしまった。  クラスメートの山下からは「最近、お前付き合い悪いと思ってたけど、これでますます放課後遊べなくなったな」と嫌味を言われた。  放課後に図書室に行くようになってから、すっかり山下との付き合いも薄れていた。だけど幸いなことに、山下は山下で、バイトのシフトを増やしていたので、俺が放課後どこで何をしているのか、あまり気にしていなかった。もしも池永とつるんでいるのをあいつに見つかったら、何を言われるか分かったもんじゃない。  池永に文化祭の実行委員に選ばれたから、毎日図書室に来られなくなった、と告げた時、彼はとても寂しそうな顔をしていた。 「そっか、でも仕方ないよね。実行委員頑張って。……せめて、同じクラスだったら良かったのに」と残念そうに言う池永を思わず抱き締めそうになって、俺は我に返る。 ――な、何しようとしたんだ、俺は……  想像の中でならまだしも、実際にやってしまったら、きっと池永に嫌われるだろう。俺は段々妄想と現実の境目があやふやになってきている自分に恐れを抱いた。  それからまるで早送りのように時間がどんどん進んで、準備が大変だった文化祭も、いよいよ当日がやって来た。  今年は例年に増して大盛況で、外部からのお客さんも多く、大成功と言って良かっただろう。俺のクラスは和風喫茶をやって、生徒だけではなく、特に年配のお客さん達に好評だった。  ちょうど俺が接客を担当している時、ふと入り口に目を向けると、教室を覗き込む池永がいた。どことなく遠慮したような、入りにくそうな顔をしているから、側に行って「いらっしゃいませ。今ならお席に空きがございますよ?」と声を掛けると、池永はにっこりと笑って「よく似合ってる」と俺のエプロン姿を褒めてくれた。  彼は一人でテーブル席につくと、白玉入りのぜんざいを美味しそうに食べて「すごい! 本当にお店に来たみたい」と喜んでいた。  そして食べ終わった後、俺に小さな声で「後夜祭、一緒に過ごしたい」と言った。俺はそれを聞いて、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。俺も池永に同じことを言いたい、と思っていたからだ。俺はすぐに頷いた。 「じゃあ、後夜祭始まる頃、昇降口で待ってて」 「うん、分かった。待ってるね」  池永が教室を出て行ってから、俺は一人で浮かれまくって、クラスメートから「お前めちゃくちゃノリノリじゃん。すげえ文化祭満喫してるよな」と笑われてしまった。  外部のお客さんもみんな学校を出て行って、後片付けも終わり、生徒たちがぞくぞくと校庭に繰り出している。後夜祭の始まりだ。後夜祭はカラオケがメインで、途中で音楽を流して踊ったりする。飲食が自由なのもあって学生たちはあちこちに座り、飲み食いしながら、気ままにお喋りを楽しんでいた。この後夜祭のメインは最後に生徒会があげる花火だ。生徒達もそれを楽しみにしているようで、今年はどれぐらい上がるんだろうね、などと口々に話しながら校庭へ向っていた。  俺は文化祭の実行委員だったから、自分のクラスの片付けの手伝いだけじゃなく、担当だった共有スペースの清掃状況なんかも見回る仕事をして、最後に生徒会に報告に行き、委員の仕事を終えた。そして急いで昇降口へ向う。  すっかり暗くなった昇降口。ぼちぼち生徒の姿も見かけるが、みんな後夜祭が始まるから、とそわそわしながら急いで外へ出て行く。そんな中、シューズロッカーの陰にこっそり隠れるようにして池永はぽつん、と立っていた。 「ごめん、待った?」  俺は急いでスニーカーに履き替えると、池永のところに走り寄る。 「ううん。今来たところ。委員の仕事ご苦労さま」 「サンキュ。……外、行こうか」  池永と二人で校庭に向う。すでに後夜祭は始まっていて、ステージ上の生徒がカラオケを熱唱していた。その前に友人と思われる生徒たちが陣取って、ペンライトを振りながら大声で合いの手を入れたり、喝采を送っている。

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