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第11話

10.  クリスマスイブの日、俺はいつも学校に行く時よりも早く目が覚めてしまった。実は前の晩は前の晩で、興奮していたせいか、なかなか寝付けなかった。 ――お父さんとお母さんがいない、ってわざわざ俺に言うぐらいだから……そういうことなんだよな?!  俺は休みに入ってから、ネットであれこれ色々調べてその日に備えようとした。もちろん俺は今までそんな経験なんて一度もない。相手の性別関係なく、だ。多分あいつも同じだろう。だから出来るだけ失敗したくなかったし、馨に痛い思いもさせたくなかった。ネットで色々と検索してみると、なかなか男同士ってのは難しいらしい。 ――まあ、最初からいきなり突っ込むとかハイレベル過ぎるから、そこまでは無理する必要ないか……  俺は一人で想像も妄想もしまくって、テンションがおかしくなっていた。 ――えーと、クリスマスプレゼントも用意したし……  プレゼントはよく考えて、手袋にした。終業式の帰り道に、あいつと繋いだ手の冷たさが忘れられなかったからだ。 ――気に入ってくれると良いな。  馨の家は、俺の家とは学校を挟んで反対側にあった。市バスを使って30分ぐらいの距離がある。友達の家に泊まりに行く、と親に告げて、バックパックを背負うと家を出た。1時過ぎに来て、と言われていたが、まだ時間は12時前だ。これじゃ約束の1時よりも早く着いてしまう。どこかで時間を潰してから行くべきかどうか迷ったが、早く馨に会いたくて、ちょうど来ていた市バスに乗り込んだ。  彼の家はバス停からすぐのところだ、と聞いていた。教えて貰ったバス停で降車して、しばらくキョロキョロしていると、すぐに家は見つかった。 ――結構でかい家に住んでるんだな……  表札に池永、と書いてあるのを確認して、インターフォンを押す。しばらくしてから「はい、どちらさまですか?」と女の人の声で応答があった。俺はそれを聞いて、あれ? と疑問に思う。 ――確か今日は馨とおばあちゃんしかいない、って言ってたよな。  応答した声は、どう聞いてもおばあちゃんの声には聞こえなかった。 「あの……俺、池永くんの友達の香山って言います。池永くん、いますか?」  俺はインターフォンに口を寄せてそう言った。しばらく無音の状態が続く。俺の声が聞こえてなかったのかな? と、もう一度同じ言葉を繰り返そうとしたら、急にドアが開いた。 「……あなた、今日泊まりがけで遊びに来る予定だった馨のお友達?」  ドアの向こうにとても綺麗な女の人が立っていた。 「はい……香山です」  どうやら馨のお母さんのようだ。顔立ちがとてもよく似ていた。顔だけじゃない、華奢な体つきや白い肌もそっくりだった。 「あの……池永くんは?」 「香山くん、来てくれてありがとう。家に……入って」  もしかして、お母さんはお父さんと二人で、これから出掛けるのだろうか? 馨に1時頃来て、って言われてたのに、俺が早く着きすぎたから、まだ外出前の準備中だったのかもしれない。俺は悪いことしちゃったな、と思いつつ、お母さんに言われるがまま素直に従って、家の中に入った。 「お邪魔します」  スニーカーを脱いだ後、きちんと揃えてから、お母さんの後をついていく。ついて入った先はリヴィングルームだった。 ――すげえ、あいつんち金持ちだな。  大型のレザーソファの応接セットが置かれた、洋風のインテリアだ。見るからに高そうな家具がいっぱい置かれていた。うちの家とはずいぶん違う。豪華な雰囲気に圧倒されてしまった。 「香山くん、今日は来てくれてありがとう」  お母さんはそう言うと「どうぞ、そこに座って」と手で指し示した。俺は「失礼します」と軽く頭を下げてから、ソファに腰を下ろす。

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