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第8話
スマートフォンのアラームで目が覚める。
「……あれ、今日なんかありましたっけ?」
「違う。今日面接あるからはやく行かねえと」
自分の部屋があるのにも関わらず当たり前のように隣で寝ていた渚が、アラームの音で目が覚めたようで、寝ぼけ眼で聞いてくる。
そう、今日は面接がある。
そんでそのまま体験入店希望の連絡があった。
「大変ですねー」と言いつつ二度寝をキメようとしている渚を足蹴にする。
「朝飯用意しろ。オレは風呂入ってくるから」
「礼央さんの愛が痛い」
「は? 純粋な暴力だから」
「えー元ヤンこわーい」
そそくさと渚がベッドから出て行く。下に落ちていた寝巻きを着用してから部屋を後にした。
ホストとして働いてたときもそうだったけど、お店につくとスイッチが入る。
万人受けするような性格じゃないのは重々承知しているので、店長としてホストクラブ「K」にいるときは、喋るのはいつもよりゆっくり、口角は常にあげるように意識をする。
それだけなのに、店長は優しいね、とかおっとりしてるねと勘違いしてくれるので楽だ。どんどん勘違いしてほしい。
「初めまして、面接に来た高橋です。よろしくお願いします」
「店長の小鳥遊です。今日はよろしくね〜、高橋くん」
面接にきた男は、顔よし清潔感よし態度よし、うん、とりあえず合格。
「経験者だったよね。前はどこの店で働いてたの?」
「トラデショナルで働いてました」
「あ〜、あそこ……」
「トラデショナル」は先月潰れた店だ。
強引な客引きでキャストは何度も警察に捕まっているし、掛けさせてなんぼ、搾り取るだけ搾りとれみたいな方針なのですこぶる評判が悪い。
店や元担当だったホストに怒り狂った客が時間外営業している日に警察に連絡し、何回も営業停止になったりと話題にこと欠かさない。
匿名で書き込める掲示板も常に荒れている。
「やっぱ評判悪いですよね……でも俺も店のやり方は気に入ってなかったけど、やめるにやめれなくて。だからこの機会に新しい店に移ろうって……」
「なるほどね〜、じゃあ今日はそのまま体入してみようか。よろしくね」
「ありがとうございますっ!」
「終わったらまた面談しようね。源氏名はどうする?」
「流星 って使えますか? 前の店も流星だったんで」
「流星……うん、いないから大丈夫。よろしくね〜、流星くん」
「こちらこそよろしくお願いします」
流星がふかふがと頭を下げる。
「トラデショナル」のキャスト聞いて若干不安だが、今のところホストを舐め腐った高校卒業したてのクソガキより全然礼儀正しい。
SNSや有名ホストが出ているテレビだのYouTubeだので、キラキラした世界の一部だけを見てオレだって簡単にナンバーワンになれると勘違いしているやつを指導すんのは、はっきりいってめんどくさい。
女の子と酒飲んでるだけでとんでもない額の金が入ってくるなんて、大間違いだ。
そんなわけない。大金が入ってくるのは、キャストのたゆまぬ努力があるからこそなのに。
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