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第11話

「流星、あんま店長に迷惑かけるな」 「あ、渚さん! でも店長良いって言ってくれましたし……」 「今回は、な。これからもいちいちお願い聞いてくれなきゃボトル卸さないってなったらどうすんの?」 「確かにそうですよね……さすが渚さん! よっ! 日本一っ! 渚さんか渚さんじゃないか、渚さんの隣がインスタ映え!」 「……流星が俺のことバカにしてんのはよく分かった」 「なんで! 尊敬してます! 一緒にTikTokにあげる動画とりましょう!」 「やだ」    そのまま渚はロッカールームに消えていった。  渚は店で、クールな王子を気取っている。  尻尾振る性格直せといったのは礼央だが、いまだに笑える。真面目な話してるとこ悪いけど。   「いやー、渚さんかっこいいです!」 「え? 正気?」    あ、やばい。  あまりにも家での渚が変態絶倫野郎で気持ち悪いからって、渚は店でみんなに(たぶん)尊敬されるナンバーワンホスト。  たまにそのことを忘れてしまう。   「いやいや正気ですよ! 渚さんかっこいいですよね……俺、渚さんからナンバーワン奪います! それが当面の目標!」 「おお〜頑張れ〜、渚もずっとこの店でナンバーワンだからそろそろ危機感持たせてやらないと」 「言いましたね、店長。俺頑張ります! 渚さんはああ言いましたけど、今日は卓ついてくださいね!」 「はいはーい、わかったよ。まあ人それぞれ接客スタイルがあるから。渚の言ってることも正しいけど、流星のやり方が悪いわけじゃない」 「ありがとうございますっ!」  向上心があるやつは嫌いじゃない。  ナンバーワンってずっと守り続けるのも大変だけど、だからと言って下から追い抜かれるようなスリルがないと楽しくないし。    結局流星の客は、ドンペリを三本卸していきラスソンを流星と二人で歌いあげ上機嫌で帰っていった。  卓で久しぶりに飲む酒は美味しかった。  現役の頃はお酒の味より値段の方が重要で、いかにはやく空けて、次のボトルを頼むかしか考えていなかったから。 「店長ー! 今日本当に助かりました! ありがとうございます! これからアフターなんですけど……」 「だめ、店長は仕事あるんだから」 「ってなんで渚さーん! まだ何も言ってない! まあダメもとでお願いしようと思っただけなんで……」 「うん、アフターは付き合えない。ごめんね」 「こちらこそすみません! ではいってきまーす!」 「はい、いってらっしゃい。気を付けてね」  手を振り流星を見送ると、渚が仏頂面で立っていた。 「俺はいってらっしゃいなんて言われたことないのに……!」  本気で悔しそうに言う渚に呆れる。  いや、オレおまえより早く家出ることのが多いし。 「てか、ここ店だけど?」 「……すみません」 「はいはい、渚もいってらっしゃい」 「れっ、……店長っ!!」  あんまりにも落ち込む渚が哀れで声をかけたが、喜びように引いた。  犬だったらしっぽちぎれるぐらい振ってるわ、こいつ。    

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