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第13話 渚視点
「ねえ礼央さん、何時ごろ帰ってくるんですか?」
「そんなんわかんねえよ。朝までには帰るけど」
「えっ、朝まで?!」
「なに、大袈裟すぎるんだけど。つーか店終わるのが二時なんだから朝帰ってきても別に遅くねえし」
「遅いですよお、迎えにいくんで終わりそうになったら連絡してください」
「いやだからなんで。母親かおまえは」
「母親……礼央さんの身内ってことですね、嬉しいです」
礼央が深いため息を吐く。めんどくせえっていう顔をしてるけど、渚は気にしない。
礼央と家族になるなら夫夫 が良いけどなあ。
あー、でも今と変わんない? 一緒の家に帰って、飯一緒に食って、風呂もときどき一緒に入ったりして、ソファでイチャイチャしてセックスして寝る。
あれ? もうこれ内縁の妻じゃん。なんだ、結婚してないけど結婚してたな。
「どちらかといえば、俺、礼央さんの妻ですよね?!」
「たった数秒でそこまで話が飛躍するおまえがこえーよ。オレとおまえがいつ将来を誓い合った? ない記憶を捏造するな」
「ひどい、俺のことは遊びだったんですか?」
「こちとらおまえで遊んだ覚えがねえんだよ」
「もー礼央さんったら照れちゃって! いつも気持ち良くエッチし――」
「それ以上言ったらまじで締める」
「はい……」
元ヤンの礼央は人を殴り慣れている。
吐くまで殴られたことを思い出して、大人しく黙った。
「とにかく、今日は飯いらない。流星がキャスト誘って飯いってるのなんかよく見る光景だろ? ギャーギャー騒ぐな」
「はい……」
なるべく傷付いて見えるように小さい声で返事をする。
「もー! 鬱陶しい! 帰るときに連絡すればいいんだろ!」
礼央さんちょろい。そんなところも大好き!
「はいっ! 迎えにいきます!」
「それはいい。ごちそうさま」
礼央が手を合わせる。渚も慌ててご飯をかき込んだ。
身支度を整えた礼央を玄関まで見送る。
しゃがんで靴を履く礼央の可愛いつむじにくちづけを落とすと、即座に手で振り払われた。
「セット崩れるからやめろ」
「すみません。いってらっしゃい礼央さん」
「おー…………いってきます」
今まで返事は「おー」だけなのに、この間渚がいってらっしゃいなんて言われたことない! と拗ねた日から「いってきます」「いってらっしゃい」が増えた。
礼央が可愛すぎる。俺のこと嫌いって言うなら、こんな喜ばせるようなことしたらダメですよ、ほんと。
「俺、毎日毎分毎秒礼央さんのこと好きになってる気がします」
「……」
パタン。扉が閉まる。
礼央に無視されるのはいつものことなので気にしないが、くっそ〜、流星め! 誘うなら礼央以外のやつにしろ!
怒りを家事にぶつけ、家を綺麗にしてから出勤した。
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