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第7話
「……何か事情がありそうですね。もしかしたら力になれるかもしれませんので、嫌じゃなければ話を聞かせていただけませんか……?」
その人はそう言いながら、ぼくにティッシュの箱を差し出してくれる。
「あの、えっと……」
「あぁ、済みません、自己紹介がまだでしたね。僕は青木春翔(あおきはると)、ここ新緑幼稚園の園長代理を務めています」
「えっ、園長代理!?すごく若いのに!?」
「ここ数年で職員が何人も辞めてしまいましてね。いつの間にか年長者になってしまい、役付きになっただけなんですよ。人手が少し足りませんので、クラス担任もやっています」
ぼくの不躾な言葉にも、青木さんは笑顔を絶やさず優しく対応し続けてくれる。
こんなに素敵な幼稚園の先生がいるなんて。
ぼくはすごく感動していた。
「貴方も幼稚園教諭と仰っていましたね。お名前は?」
「あっ、はい、桃田陽輔と申します。こっちは息子の悠太郎です」
「桃田くん、少しお待ち頂いてもよろしいですか?お話をお伺いする間、悠太郎くんはここでピアノの音を聞いていた方が良いと思いますので……」
そう言って、青木さんはエプロンのポケットからスマホを取り出すとどこかに電話をかける。
「あぁ、春楓?悪いんだけど掃除終わったらホールに来てくれない?困ってる親子がいて、助けたいんだ」
その左手の薬指に金色の指輪が嵌めてあるのをぼくは見てしまった。
その場所にはついこないだまでぼくも銀色の指輪をしていたけど、妻の事があってすぐに外して捨ててしまっていた。
やっぱり、こんなに素敵な人だからご結婚されて幸せな家庭を築いているんだろうなぁ。
「今、僕と同期で幼馴染の春楓という者が悠太郎くんの面倒を見てくれる為に来てくれますので、それまで僕がピアノを弾きますね」
「ぴあの!!」
悠太郎が青木さんのピアノの言葉に反応して嬉しそうにする。
「悠太郎くん、隣でピアノ、聴いててもいいよ。おいで」
「うん!」
青木さんが手を差し伸べると、悠太郎は笑顔でその手を取って一緒にピアノの方に歩いていく。
こんな風に笑う悠太郎を見るの、久しぶりだ。
「『きらきら星』、好き?」
「うん!」
「僕も大好きだよ。じゃあ今から弾くね」
青木さんの『きらきら星』を、リズムに乗って楽しそうに聴いている悠太郎。
いつの頃からか分からないけど、ぼくの前で無理に笑っていた時もあったのかと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
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