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第13話

椅子に座り、ゆっくりと深呼吸する。 絶望して、泣きながらでも、ピアノだけは弾き続けた。 ピアノだけはぼくを裏切らなかったからだ。 ピアノが好きで、ピアノが弾ける仕事がしたくて選んだこの道を、もう一度ちゃんと歩きたい。 ぼくは、そんな思いを込めて、精一杯弾いた。 2分までいかない演奏。 少し間違えてしまったところもあったけど、何とか弾き終える事が出来た。 3人はぼくが弾き終えると、拍手をしてくれた。 「いきなり弾いてって言われてここまで弾けるのはかなりいいと思います」 「あ、ありがとうございます……」 青木さんの言葉に、ぼくは胸が熱くなった。 「春楓はどう思った?」 「ピアノが好きって伝わってくる演奏だった。でも、何か苦しそうにも聞こえた。今がすごく大変で辛いからなんだと思うけど」 青木さんの問いかけに、黄嶋さんが答える。 「春希は?」 「……下手ではないし一生懸命さも伝わってきた演奏だったけど、もっと楽しく弾けたら良かったんじゃないかな」 赤木さんも青木さんの問いに答えた。 「あとは新庄さん次第だね。桃田くん、君を雇うように僕から園長に話してみるから、連絡先を教えて頂けませんか?」 「え……でも……」 「確実なお約束は出来ませんが、悠太郎くんも一緒に通えるように出来ないかも相談してみます。そして、うちの園長は不動産会社も経営していますので、君たち親子が安心して暮らせるような住居があるかも聞いてみますね」 笑顔でそう言ってくれる青木さん。 「あ……ありがとうございます!!」 ぼくは涙を抑えられなくて、泣きながら3人に向かって土下座していた。 「お、おい!!何で土下座してんだよ」 黄嶋さんが驚きの声を上げる。 「すみません、本当にありがたくて、でも、申し訳なくて……」 「桃田くん、悠太郎くんも見ていますから、そのくらいにして下さい」 「すみません……」 青木さんに言われて顔を上げると、すぐ側で悠太郎がぼくを心配そうな顔で見つめていた。 「悠太郎、ごめんね、こんなパパで……」 「パパ、どこかいたいの?ぴあのきれいだったのに」 「うん、ごめんね、でももう大丈夫だから……」 ぼくは泣きながら悠太郎を抱き締めていた。

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