「おっ、お子ちゃまはようやく2杯目か」 酔ってきているのか、紺野さんがぼくのグラスにお酒を追加しながら頭をポンポンと叩いてくる。 「そーだ！おい、チビ、ピアノ弾くぞ」 「えっ！？」 「可愛い息子の為だろ？いいから来い」 「わぁっ！！」 紺野さんがぼくを無理矢理ピアノのところまで引っ張っていく。 「春翔、楽譜貸して！」 「いいよ、好きなのどうぞ」 ぼくは左側に座らされ、そこに近くの棚から楽譜を持ってきた紺野さんが戻ってきた。 「これ弾くぞ！弾けるよな？」 開かれたページには、シューベルトの『3つの軍隊行進曲第1番』の連弾用の楽譜が書かれていた。 「た、多分、大丈夫……です……」 お酒を飲んで演奏するなんて初めてだ。 大丈夫かな。 「多分じゃダメだろ！息子に喜んで欲しくねーのかよ」 「は、はい！頑張ります！！」 紺野さんはぼくに考える余裕さえ与えてくれない。 ぼくは深呼吸した後、弾き始めた。 低音部のパートのぼくが弾いてから、紺野さんが入ってくる。 「ピアノ弱すぎ！あと、もう少し軽く弾けよ！」 「は、はい！」 細かいところは繊細なタッチで、強いところは大胆で。 はるき先生みたいな弾き方の紺野さんのピアノは、一緒に弾いていてすごく上手いなぁって感動して、すごく楽しかった。 研修中、ピアノの練習もその内容に入っていて、ぼくは3人の先生方を教えていらした先生のレッスンを受けたりして、少しだけ上達出来たと自分では思っていた。 「下っ手くそだなー、お前」 「ご、ごめんなさい……」 間違えずに弾けた、って安心してたら紺野さんからそう言われてしまう。 「もう少し上手く弾けねーと、保護者から言われるぞ。音楽関係者の親とかいるからな！」 「は、はい……」 「よし！もう1回弾くぞ！！」 「はい！！」 こうして、ぼくはしばらく紺野さんと連弾し続けていた。