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第36話

同じ曲を7回弾いてようやく、紺野さんはぼくを解放してくれた。 「やれば出来るじゃねーか。よし、飲み直すぞ」 「えっ、あっ……」 初めて、紺野さんがぼくの頭を撫でながら笑いかけてくれた。 「お疲れ様。ケーキ、切ったから食べて下さいね」 「パパ、ぴあのいっぱいきれいだったよ!!」 席に戻ると、はると先生がケーキを切り分けてくれていて、悠太郎は頬っぺたににクリームをつけて美味しそうに食べていた。 「ありがとう、悠太郎。ケーキ、美味しい?」 「うん!!イチゴケーキ美味しい!!」 「良かったね、悠太郎。お顔にクリームついてるよ」 ぼくは悠太郎の頬っぺたに付いているクリームを指で掬った。 「ははは、悠太郎、夢中で食べてたんだな」 そう話すはるか先生も唇の端にクリームが付いていた。 「春楓もだよ。ケーキよりすごく美味しそう……」 「……!!」 それを見たはるき先生がそこを舐める。 その色っぽい行動に、ぼくはびっくりしてフォークを落としそうになった。 「お、おい、春希、お前酔っ払い過ぎ」 「……あぁ、ごめん、春楓。我慢出来なくてつい」 「春希、酔っているからってしていい事と悪い事があるよ」 びっくりしたんだろう、慌てているはるか先生。 そんなはるか先生の肩を抱こうとするはるき先生を、はると先生が制止した。 「どういう意味?今のは悪い事って言いたいの?春翔だってこないだの謝恩会で酔っ払ってお母さん方が見ているのに春楓の頬についたケチャップ舐めてたじゃない。そっちの方が悪い事だと思う」 はるき先生の声のトーンが低くなって、ぼくは怖くなってしまう。 「あれはお母さんの中に春楓の頬を舐めようとした人がいたからやっただけの事だよ。さっきの春希の状況とは全然違う」 はると先生もいつもの優しい口調じゃなくて、少しキツい言い方だ。 ……って、先生方、ケンカしてるのかな? そういう雰囲気だよね。 「うるせえ!!どっちもどっちだ!春希、春翔、悠太郎の前でバカなトコ見せんじゃねぇ!!」 険悪な雰囲気を断ち切ったのは、はるか先生だった。 「春楓、ごめん、そんな顔しないで」 「ごめんね、春楓。今日はもう喧嘩しないから許して」 はるか先生の一言で、はるき先生もはると先生もすっかりおとなしくなる。 「…………」 何だろう。 はるか先生、すごい。 すごいっていうか……おふたりの先生方にとってはるか先生が絶対の存在……みたいに見えた。

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