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第38話

「ん?何だ?いつもに増して暗い顔して」 「あっ、ごめんなさい、ちょっと考え事をしてしまって……」 「分かった!元嫁の事だろ?初めて優しくされた相手だった……とかなんだろ?」 ニヤニヤしながら話す紺野さんが聞いてきた事は図星だった。 「そう……です……」 ぼくは酔っていた事もあって、そのまま胸の奥底に無理矢理押し込めた思いを口に出してしまっていた。 「ぼくはピアノを弾くのが好きだったから、本当はプロになりたかったんです。けど、『お前のピアノが通用する訳ないだろう』って父親に反対されて、諦めて決めた道が幼稚園の先生でした。ぼくはこんな性格だからなかなか園の環境に馴染めなくて、そんな時に先輩だった妻がぼくに優しくしてくれたんです。この人とずっと一緒にいたいって思って、話すのは苦手だけど仲良くなりたい一心でなんとか声をかけて、それでお付き合い出来る事になって……」 話しているうちに涙が溢れてきた。 「悠太郎が生まれた時、ふたりの宝物だねって言ってくれたのに、なのにどうして……」 「あー、それ、お前とのセックスがつまんなくなってったからじゃねーの?でもさ、女はお前がほとんど経験ないって分かってて結婚したんだからお前は悪くない。そんなクソアマは酒飲みまくってとっとと忘れた方がいいぜ。ほら、飲め飲め」 泣きながらお酒を飲んで話すぼくのグラスに、紺野さんはお酒を注いでくる。 色々憶測で話されていたけど、どうでも良かった。 「ううっ、ひどい、ひどいよ!!悠太郎は何も悪くないのに辛い思いをさせられたんだよ!!」 ぼくは泣きながら、それを今までにないペースで飲み干していた。 「……もも、よっぽど辛かったんだな」 「初めて本気になった人に裏切られたんだ、それは辛いと思うよ。僕、そんな事になったら絶対死ぬと思う」 「僕も」 あれ? だんだん、先生方の声が遠くなっていく。 どうしてだろう。 おかしいな。 ぼくは瞼がだんだん重くなり、自分でも気づかないうちに眠ってしまっていた。

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