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第50話
「それでは、新入園児の皆さんが入場します。拍手でお迎えください」
浩のアナウンスを合図に、ぼくはピアノを弾き始める。
絵本作家の方が作詞された、誰もが知っている曲。
軽やかなイメージを想像しながら、心を込めて弾いた。
「これより、新緑幼稚園入園式を執り行います。新入園児の皆さんはお座りください」
入場の演奏を終えると、ぼくは保護者の皆さんに一礼して、ピアノの傍に用意された席に座る。
悠太郎は緊張してるようだったけど、まっすぐ前を向いて姿勢よく座っていた。
園長先生からのお話の後、職員紹介という事でぼくも先生方の後ろについて歩き、一番端に立つ。
「わたしの方から当園の職員の紹介をさせていただきます……」
ぼくは年少の副担任として、はると先生に続いて紹介された。
「もも先生は今年度から勤務する事になりました。お子さんも一緒に入園したお父さん先生ですので、皆さんの悩みも一番分かると思います。はると先生と一緒にお子さんの成長を応援したいと張り切っておりますので、どうぞよろしくお願い致します」
園長先生のお言葉の後、ぼくは一歩前に出て一礼し、元の位置に戻った。
式は滞りなく終わり、ぼくもミスなく仕事を務める事が出来た。
「お疲れ。あの演奏なら大丈夫だと思う」
年少さんのクラスに行こうとすると、浩がそう言ってぼくの頭をポンポンしてくる。
「そっかぁ、良かった。でも、はるか先生たちの方がずっとすごかったから……」
入園記念演奏という事で、はるか先生、はるき先生、はると先生が3人でラフマニノフの『6手のための3つの小品』を演奏したんだけど、その完成度の高さに演奏が終わった後、会場が一瞬しーんとなった後でものすごい拍手に包まれたんだ。
ぼくもものすごく感動して、思わず拍手してしまっていた。
「あいつらはあれで金稼いでるんだからあれくらい出来て当然だろ」
「え?どういう事?」
「ん?あいつら3人、チャリティーコンサートしたり演奏をネット配信してその売上を恵まれない子供たちを支援する団体に寄付したりしてんだよ。じゃ、また後で」
「う、うん……」
どうしよう。
ぼく、浩との時間を楽しみにしちゃってる。
ドキドキしながら、ぼくは浩の背中を見つめていた。
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