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第56話

その日は、浩が家に来る事になっていた。 いつものように夜ご飯を作ってもらって、3人で食べて、悠太郎を寝かしつけてからふたりの時間を過ごして。 「今日のお前、なんか上の空だったよな」 一緒にアイスクリームを食べていると、浩にそんな事を言われてしまう。 「うん……ごめんね、はるか先生たちの事が気になって。ぼくなんかが考える事じゃないんだと思うんだけど……」 浩に言われたからというのが大きいんだけど、ぼくは自分の感情を伝えられるようになっていた。 「お前は優しいな。オレも気になったけど、家族の事とかよく分かんねーからなぁ……」 「え……?」 浩がぼくの頭を撫でながら言ってくれたその言葉に、ぼくはびっくりしてしまう。 「あ、お前に話してなかったな。オレ、過去の記憶がねーんだよ。6年前に春楓たちが浜辺に倒れてるオレを見つけてくれたんだけど、高卒くらいの学力とピアノがそこそこ弾けるって事と名前しか覚えてなくてさ。歳も多分って事で今年23なんだけど、もしかしたら違うかもしんねー」 「そう……なんだ……」 あっけらかんと話す浩に、ぼくはますます驚かされた。 はるか先生、それで多分同い年って言ってたんだ。 「知りたくないの?自分の事」 気になって、つい聞いてしまう。 「興味ねぇよ。忘れたかったのかもしんねーしさ」 「そっかぁ……」 そう言われればそうなのかもしれない。 なんだか聞いちゃいけない事を聞いちゃったなぁ。 「気にすんなって!オレ、春楓たちがオヤジに話してくれて、オヤジがオレの事育ててくれて、今スゲー幸せだから!!」 「いたっ!!浩、強く叩きすぎだよ!!」 浩が肩をバシバシ叩いてきたから、ぼくはそう言った。

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