63 / 151

第63話

「春希んち、大変そうだな」 音声が途切れると、浩は言った。 「……なんだかうちみたい」 ぼくの脳裏に父親の姿が浮かぶ。 「へぇ、お前んちの父親も頑固なのか」 「うん、自分の考えだけが正しいって思ってる人だよ。ピアノをやりたいって言った時も女のする事だって言われて、ずっと反対されてきたんだ」 「マジかよ。めっちゃめんどくせーオヤジじゃん。お前、よく耐えてたな」 そう言って、浩はぼくの頭をポンポンしてきた。 「父親ってそういうものだと思って生きてきただけだよ。だけど、ぼくは悠太郎が生まれて父親になった時、あんな人には絶対ならないって誓ったんだ。悠太郎がやりたい事、考えてる事、全部受けとめてあげたいって今も思ってる」 「ふーん、偉いじゃん」 ぼくの言葉に、浩がぼくの髪をぐしゃぐしゃしながら撫でてくる。 「や…っ、ちょっと、やめてよ…!」 「悪い悪い、お前も立派な父親なんだなって思ってさ」 ニヤニヤしながら話す浩。 絶対、ぼくの事からかってる。 「……じゃあさ、悠太郎がこれから先、お前みたいに女に騙されて子供作らされて責任取ったのに不倫されてあっさり捨てられたらどうすんだよ」 「えっ、それ、今言われてもって感じだけど、ぼくが味方にならなかったら悠太郎は辛いだろうから悠太郎の味方になりたいなぁ」 「ふーん……」 「浩、聞いてきたのにどうでも良さそうだね」 からかわれたのが悔しくて、ぼくはつい意地悪な事を言ってしまう。 「どうでも良いワケじゃねーけど、さっぱり分かんねーなって思って。オヤジはオレのピアノを褒めてくれて、幼稚園の先生になるようにって言って色々手を尽くしてくれたけど、プライベートの事まであんま口突っ込んでこねーし、ガキもいねーからかな」 それに対して浩は、まともな答えを返してくれた。 「ま、多かれ少なかれみんな何かを抱えて生きてんだな……」 そう話す浩の目が、ここじゃないどこかを見ているような気がした。

ともだちにシェアしよう!