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第69話

「昼間の女の話だけど……」 「うん……」 使ったお皿を片付けた後、ふたりでソファに座って話をする。 「あれ、半年くらい前に園をクビになった奴でさ……」 浩は、昼間の女の子が浩に一方的に想いを寄せて、当時付き合っていた別の女の子と幼稚園内で大喧嘩し、ふたりとも園をクビになってしまった後、付き合っていない子が浩のストーカーになって警察沙汰になりかけた事を教えてくれた。 「……大変だったね……」 ドラマみたいな話に、ぼくはそう言った。 「ふたりして気が強い女だったから、自分の方がオレに愛されてるって張り合ってさ。ま、ひとりは妄想だけど」 「でも、どうしてそんな事になるの?……火のないところに煙は立たないんじゃない?」 「それ、春翔にも言われた。オレが勘違いさせるような言動してたらしい。新人の時も同じような事があって、そん時は指導してくれてた先輩と保護者が揉めてさ……」 「…………」 ぼくは返す言葉が浮かばなかった。 人それぞれ違う人生だと思うけど、それにしたって浩のはドラマの中のお話みたいな事しか起きてない気がした。 「その顔、引いたんだろ?」 「そんな事ないよ。ぼくの人生と違い過ぎてびっくりしただけ」 「お前もなかなかだと思うけどな」 「浩には言われたくないよ」 「うるせー!お前なんかこうしてやる!!」 寂しそうな顔を一瞬見せたかと思ったら、浩はぼくを押し倒して擽ってくる。 「あははっ、やだ、やめてよ、くすぐったいってば」 「擽ってんだから当然だ」 しばらくぼくを擽って満足したのか、浩は動きを止める。 「だから、お前はスゲー楽。お前はオレと仲良いって周りに自慢する事もねーし。お前をセフレに選んで良かった」 「……それ、浩が出会った人がたまたま我の強い人が多かっただけなんじゃないかな…」 髪を撫でながら話す浩の表情はちょっとカッコよく見えて、ぼくはドキドキしてしまってた。 ……浩には絶対言わないけど。 「褒めてんだから素直に受け止めろよ、可愛くねーな」 「可愛くなくていいよ。ぼく、男だし」 ほっぺたをつねられて、ぼくもつねかえす。 「んな事知ってる……」 そう言った浩は、ぼくのおでこに自分のそれをくっつけてきた。 あ、これってキスしてくるって事かな。 そう思った時だった。 「パパ……?」 悠太郎が起きてきて、目を擦りながらぼくらを見る。 「よっしゃー、オレの勝ち!!大した事ねーなー、ヨースケ」 「えっ、ええっ!?」 「悠太郎、パパがにらめっこ負けないっていうから顔近づけて勝負したんだけどさ、めっちゃ弱かったぞ」 ぼくが困惑していると、浩がぼくから離れて悠太郎を抱っこしながら言った。 「ひろせんせい、パパよわいよー、ぼくかてるもん」 「マジか!じゃあ悠太郎、オレと勝負だ!!」 そう言って、浩は悠太郎とおでこを合わせてにらめっこを始める。 誤魔化せた……のかな。 その後、悠太郎はぼくが残しておいたナポリタンを食べ、お風呂に入れるとぐずらずに寝てしまった。 浩はそれが終わるまで待って、ぼくとのいつもの時間を過ごしてから帰っていったんだ。

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