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第98話
1学期の後半に入ると、園児たちには内緒で年長さん対象のお泊まり会の準備が進められた。
お泊まり会では音楽ホールでのコンサート鑑賞の他、幼稚園にお泊まりして夜は園庭で花火大会、園内では肝試しをやる事になっていて、肝試しは大人でも怖いと思うくらいのクオリティでやると浩から聞いていた。
ぼくは悠太郎がいるので当日は園には泊まらず、子供たちがコンサートに行っている間にお化け屋敷の会場作りを手伝う事になっていた。
「えっ、これ……すごいね……」
お泊まり会当日。
ぼくは悠太郎をホールで遊ばせてもらい、会場になる年少さんの教室に物置に入っていた道具を見て驚いていた。
そこには暗幕の他に大人でも怖いと思うようなお化けやゾンビのマスクが入っていた。
「ゆみ先生の着物の幽霊姿とかマジ怖ぇから」
一緒に会場作り担当になっていた浩が言う。
「確かに怖そうだね」
「ま、写真撮れたら送るわ」
「うん、楽しみにしてる」
部屋に暗幕をつけ、机とイスでお化け屋敷の通路を作ると、ぼくの仕事は終わった。
「悠太郎、パパのお仕事終わったから帰るよ」
「パパ、ピアノひいて!!」
ホールに悠太郎を迎えに行くと、サッカーボールで遊んでいたらしい悠太郎がぼくの方に走ってきて言った。
「えー、1曲だけだよ」
「うん!コンサートでひくのがききたい!!」
「分かったよ」
悠太郎を隣に、ぼくはオンラインライブで弾く事になっている、中田喜直の『夏の思い出』を弾いた。
杜さんから今回のオンラインライブは懐かしい日本の歌というテーマでやって欲しいという事で、ぼくはこの曲を弾く事になっていた。
「おっ、パパ上手くなってんじゃん!!」
途中で浩もホールに来て、ぼくの演奏をそう褒めてくれる。
「パパのピアノ、きれいだよ!!」
「そうだな、パパのピアノ、きれいだな」
「ひろせんせいもひいて!!」
「え?オレも?……じゃあ1曲だけ……」
一緒に出る事になっていた浩は、ぼくと交代すると成田為三の『浜辺の歌』を弾いてくれた。
朗々と歌うように演奏する浩。
やっぱり上手だなぁ。
「せんせいのピアノ、げんきいっぱいだね!」
「悠太郎、パパとの違いが分かるなんてスゲーじゃん!」
浩が笑顔で悠太郎の頭を撫でてくれる。
ぼくは悠太郎の感性の成長に感動して泣きそうになってしまった。
その日の夜、悠太郎を寝かしつけた後でピアノの練習をしていると浩から画像が送られてきた。
話していたゆみ先生の幽霊姿も怖かったけど、ぼくにとって一番怖かったのは血まみれゾンビになっていたはるき先生だった。
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