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第105話

結局、トイレの掃除をしてから戻ったので、コンサートは半分くらいしか聴けなかった。 「浩のバカ!ぼく、全部聴きたかったのに!!」 「悪かったって言ってんだろ?てかお前がオレを煽るような顔してるのが悪い。それにお前だって気持ち良さそうにしてたじゃん」 「それは……そうだけど……」 「ハハハッ、やっぱそうだろ?」 駅までの道をそんな話をしながら歩き、目的のピアノの場所に到着した。 誰も弾いている人がいなかったので、ぼくらはすぐに座っていた。 「こーゆートコで弾くならみんなが知ってる曲がいいよな。ヨースケ、アニメの曲とか弾けるのある?」 「うーん、あんまり速く弾けないけど……」 ぼくは、自分が産まれる前にヒットしていたアニメ映画の曲の主題歌なら暗譜している話を浩にした。 「それ、オレも知ってるから何とか連弾出来そうだな。んじゃ、お前主旋律弾いて。オレ、適当に合わせるから」 「分かった」 ぼくが前奏を弾くと、浩がそれに合わせて弾いてくれる。 ぼくだけだと静かな曲が、浩が一緒に演奏してくれる事で力強い響きになって、曲に込められたメッセージもより表現されているように感じられた。 間違える事なく弾き終えると、周りになかったはずの人だかりがいつの間にか出来ていた。 「あの人たちめっちゃカッコイイ!!」 「プロの人なんじゃない?」 若い女の子たちがぼくらの写真を撮りまくっている。 「ヨースケ、早い曲いける?」 「うーん……これなら……」 ぼくはスマホで学生時代に先生と連弾した事がある古いアニメの曲を調べると、その曲の動画を浩に見せた。 「お、いーじゃん。オレ、この曲めっちゃ好き」 ぼくらは座る場所を変えると、その曲を弾き始める。 苦手な速い曲。 でも、この曲のカッコ良さはスピード感だからと一生懸命練習した学生時代。 練習の時、指慣らしとして弾く事もある曲を、ぼくは浩と楽しく弾けた。

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