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第116話
夏休み最後のイベント、オンラインライブの日。
ぼくは、はるき先生の車に載せていただき、会場のコンサートホールに向かっていた。
最近建てられたそのホールはかなりの大きさで、芸能人のコンサートやライブにも使われている場所だった。
こんな所でピアノを弾く日が来るなんて思ってもみなかった。
この日の為に練習してきた事、ちゃんと出来たらいいな。
会場に着くと、杜さんとはるみくんが僕らを出迎えてくれた。
「ゆうたろうくん!!」
「はるみくん!!」
甚平を着た悠太郎に抱きつき、頬にキスをするはるみくん。
その手には紙袋を持っていた。
「これ、Englandのおみやげ。パパにかってもらったおそろいのメトロノームだよ!」
「わー!ありがとう!!」
はるみくんから紙袋を渡されて嬉しそうな悠太郎。
可愛くてつい写真を撮っちゃったけど、お土産にメトロノームなんて。
「す、すみません、高価なものを頂いてしまって……」
ぼくは慌てて杜さんに謝っていた。
「No problem、ご自宅にあると思いましたが、春海がどうしても悠太郎くんとお揃いがいいと言って聞かなくて。むしろこちらの希望を押し付けてしまい、申し訳ありません。新学期が始まりましたらふたりで教室に通わせようと思っていますので、そのつもりでいて下さいね」
「あ、はい、分かりました…」
どうしよう、ぼく、何もお返し出来そうにないよ。
「おい、明日南。あんまりうちのももを困らせんなよ。コイツ、めっちゃ気を遣うんだからな」
ぼくが半泣きになっているのを見かけたみたいで、はるか先生が側に来てくれる。
はるき先生、はると先生とお揃いのベージュに縞模様の入った浴衣を着たはるか先生。
いつもの元気な雰囲気ではなく、少し落ち着いた感じに見えた。
「Sorry、春楓。春海が悠太郎くんの事、すごく気に入ってしまってるから僕もついつい喜ばせてしまいたくなるんだよ」
「気持ちは分かるけどさ、ほどほどにしろよな」
杜さんと談笑するはるか先生。
そのふたりを見る鋭い視線を、ぼくは背中で感じた。
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