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第118話
『滝廉太郎さんの名曲を続けてお送りしました。たくさんのコメント、ありがとうございます。学校で習った、教科書に載っていたというコメントも多く見られますね。続きまして、今回が初デビュー、僕らの後輩、鹿毛馬(かげうま)くんが『夏の思い出』を弾きます』
はると先生に紹介され、ぼくはピアノに向かった。
客席からは悠太郎がはるみくん、杜さんと一緒に大人しく見ていてくれている。
深呼吸すると、ぼくはピアノを弾き始める。
被り物をすると、周りが見えなくて音だけに集中出来る気がした。
ぼくのピアノは、『海』。
この曲は静かな海なんだ。
左手から右手に繋がる音色を途切れないように、流れる水をイメージして弾いた。
自分では、緊張しないでリラックスして弾けたと思う。
『鹿毛馬くん、初めてでしたが素晴らしい演奏でしたね。涼しい夏をイメージさせてくれるというコメント頂いております、ありがとうございます』
弾き終えて舞台袖に戻ると、はると先生がこうアナウンスしてくれるのが聞こえた。
良かった、上手く弾けたんだ。
被り物を脱ぐと、ぼくはタオルで汗を拭う。
「お疲れ!春楓の後であれだけ弾けるなんてスゲーじゃん」
浩がぼくの頭を撫でながら、お水の入ったペットボトルを渡してくる。
「ありがとう」
ぼくはそれを受け取って飲んだ。
ぼくの演奏の後、ステージでは、はるき先生が『われは海の子』を弾いている。
先生の弾き方で弾くと勇壮な感じがしてぴったりだなぁと思って聴いていたけど、気のせいだろうか、今まで聴いた事のある弾き方とは違う雰囲気だと感じた。
「この曲、春希の親父さんが大好きな曲なんだ」
そう話すはるか先生の顔は、どこか悲しげに見える。
「春希、色々あって親父さんと何年も会ってないんだよ。だからこの曲を明日南から指定された時に俺と春翔が弾こうかって聞いたんだけど、春希が絶対弾きたいって言ったんだ。春希、練習してる時にたまに泣いてたから心配だったんだよな……」
「そうなんですね……」
はるき先生はぼくとは違って、本当はお父さんが大好きなんだろう。
そうじゃなかったらお父さんの大好きな曲を弾こうなんて思わないはずだ。
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