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第119話

弾き終えたはるき先生が舞台袖に戻って来ると、パンダの被り物をしたまま、はるか先生に抱きついていた。 「……今日のが一番良かったと俺は思ったよ、春希」 その広くて大きな肩を震わせているはるき先生に、ぼくは浩から見せてもらったあの小柄で気弱そうな時のはるき先生を見た。 「ありがとう、春楓」 はると先生が岡野貞一の『紅葉』を弾いている間、はるき先生はずっと、被り物をしたままはるか先生に寄り添っていた。 「…………」 はると先生の次は浩の番。 さっきからずっと無言で目を閉じてるけど、集中してるのかな。 「…………」 傍に行くと、浩は寝息を立てていた。 この状況で寝てるなんて浩らしいというかなんというか……。 「浩、ひろ、もうすぐ出番だよ」 はると先生が弾き終えたのを確認すると、ぼくは浩を起こす。 「え?あぁ、春翔のピアノ、聴いてて気持ち良くて寝てた。アイツ、こういう曲弾くと特に上手いよな」 立ち上がり、伸びをしながら話す浩。 「おし!春楓の前にビシッとキメてくるか!!」 白い馬の被り物をすると、浩はステージに向かっていった。

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