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第122話
はると先生と浩と舞台袖を出て、廊下で発声練習をしながらギリギリまで練習した事を思い出していると、はるき先生が出番だと呼びに来てくれた。
「あの時の忘れ物をようやく受け取れる感じだよね、春希」
「……そうだね……」
そんな会話を交わすふたりは、すごく気合が入っているように見えた。
はると先生以外のメンバーが被り物から目元だけのキツネのお面に変えてステージに上がる。
『皆さん、長らく閲覧頂きありがとうございました。最後にアンコールと致しまして、歌をお届け致します』
そう言ってはると先生は一度舞台袖に行き、ピンマイクを外してぼくらと同じキツネのお面になってすぐに戻って来た。
「…………」
指揮台に上がり、はるき先生を見た後ぼくらを見て口元だけの笑顔を見せると、はるか先生は手を上げる。
はるき先生が前奏を弾き、歌が始まった。
はると先生の声は広いホールでも響き、それに合わせて歌える事がすごく楽しくて嬉しかった。
はるか先生の指揮はお父さんを彷彿とさせるような指揮で、あの時は後ろ姿からでも伝わってきた指揮者自身が音楽を心から楽しんでいる気持ちを、はるか先生同じようにも伝えてくれた。
メリハリのついた、踊っているようにも見える指揮。
それに合わせる、はるき先生の力強い伴奏が歌っていてとても心地良くて。
ソロも無事に歌い終え、先生方の素晴らしさに改めて触れられて、本当に幸せな時間だった。
客席で杜さんが顔をハンカチで隠して泣いているのが見えて、それだけ感動していたんだと思うと、こんなぼくでも役に立てたんだって思えて嬉しくなった。
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