128 / 151

第128話

園児たちのリレーも怪我をする子もなく、無事に終わっていた。 悠太郎が1位でちゃんとバトンを渡せていた姿を見ると、ぼくも負けてられない。 あぁ、でも、やっぱり浩に勝てる気はしない。 練習の時もいつも負けてたし。 「それでは最後の競技。保護者の有志の方と職員によるリレーを始めさせて頂きます」 園長先生がアナウンスすると、館内はものすごい歓声に包まれる。 「出場選手、年少……杜明日南さん、桃田陽輔先生、青木春翔先生」 名前を呼ばれた保護者を先頭に、コースを1周する。 観客席をよく見ると、いつの間にかはるか先生、はるき先生、はると先生の名前が書かれた横断幕やうちわを持っているお母さん方の姿でいっぱいだった。 「はると先生ーー!!」 「もも先生ーー頑張ってーー!!」 あぁ、怖いよ。 こんなに盛り上がるなんて知らなかった。 「パパーー!!頑張れーー!!」 声援の中に、そんな可愛い声がした。 走り終える頃、悠太郎が一生懸命になって大声を出してぼくに手を振っているのが見えた。 そうだ、悠太郎だって頑張ったんだ、ぼくも頑張らなきゃ。 ぼくは悠太郎に笑顔で手を振って自分を奮い立たせようとした。 「年中…………さん、紺野浩先生、赤木春希先生」 ぼくは所定の位置につくと、大歓声に包まれた館内を改めて見回していた。 「はるき先生ーー!!」 「頑張ってーーはるき先生ーー!!」 「ひろ先生ーー!!」 ぼくの時は、はると先生だったように、浩よりも圧倒的にはるき先生を応援する声が多かった。 それは、はるか先生の時も同じで、ぼくは改めて先生方3人の人気ぶりに驚いた。 「位置について、よーい!!」 園長先生がピストルを鳴らす。 子供の体育帽を被ったお母さんが走り、お父さんが走り、お父さんの2人目に入った時、杜さんが2位でバトンを受け取り、前の人を追い越してものすごい速さでぼくの方に走ってきた。 「ヨースケ、オレに抜かれたら罰ゲームな」 「えっ!?何それ!?」 杜さんが来る直前、コースで並んで待っていると浩が突然そんな事を言い出す。 「ほら、保護者来たぞ。せいぜい抜かれねーようにな」 ニヤニヤ笑いながら言う浩。 ぼくは反論したかったけど、杜さんが来てしまったのでそのままバトンを受け取った。 「最初にバトンが保護者から職員に渡ったのは年少、杜さんからもも先生です。2位の年中さんとの差は約半周……といったところでしょうか」 園長先生のアナウンスを聞き流しながら必死に走る。 「もも先生ーー!!」 「せんせーい、がんばってーー!!」 お母さん方だけじゃなくて園児たちもぼくを応援してくれていた。 「パパーー!!」 悠太郎も、ぼくを応援してくれてる。 抜かれたら罰ゲームなんて絶対いやらしい事に決まってる。 多分、浩が迫ってきてる感じがするけど、負けたくないよ。 でも、ぼくは一生懸命走ったけど、はると先生にバトンを渡す直前で浩に抜かれてしまった。 「……オレの勝ち」 息を上げながら笑いかけてくれる浩。 あと少しだったのに。 「いよいよアンカー、はると先生とはるき先生が抜きつ抜かれつ……という状況ですね。年長クラス、いよいよはるか先生にバトンが渡りました」 ゆみ先生が苦しそうにはるか先生にバトンを渡す。 「ごめんなさい!!」 「お疲れ!後は任せろ!!」 半周くらい差がついていたけど、はるか先生の速さは稲妻の様だった。 それまではるき先生とはると先生を応援する声が大きかった館内は、はるか先生がものすごい速さで追いかけてくると一気にはるか先生を応援する声が大きくなった。 「はるか先生ーー!!」 「はるき先生ーー!!」 「はると先生ーー!!」 はると先生が若干リードしているところにはるか先生が追いつき、あっさり抜いて年長さんの子たちが持っているゴールテープを切る。 「優勝は年長クラスです!!」 1位の旗を持って笑顔で手を振りウイニングランをするはるか先生。 2位にはると先生、3位にはるき先生が入り、館内の盛り上がりは最高潮に達していた。 「あーぁ、やっぱ春楓に勝つのは無理かー」 「すごい速さだったね、はるか先生」 「はるかーー!!Congratulation!!優勝おめでとう!!」 ぼくと浩がクラスの方に向かって歩こうとすると、目の前にはるみくんの黄色い帽子を被った杜さんが現れ、はるか先生に抱きついてくる。 「っおい明日南、この場所でこーゆーのはやめろよ!!」 「そうだよ、君だけ特別扱いされてるって噂になったらお互い困るじゃないか」 「もう少し考えて行動して」 それを止めようとはるき先生とはると先生がやって来た。 「出た、噂の春楓たちの同級生……」 浩もその勢いに驚いている。 「噂って?」 「保護者の間で4人が幼馴染でライバルだったって事が有名になりつつあるみたいで、小学校や中学の卒アルの写真、春楓たちのファンの保護者の間で出回ってるらしいぞ」 「浩、そんな情報どうやってゲットするの?」 「んー、保護者がオレに聞いてくる時にペラペラ話してくれるから……かな」 4人を避けるように歩きながら話すぼくたち。 「でも、卒アルなんてどうやって…………」 「さぁ、そこは知らねーけど。春楓たちの行ってた翠璃ヶ丘(みどりがおか)学園って名の知れた学校らしいし、あいつらの熱狂的なファンもいるから高値で取引されてんのかもな」 「えっ!?翠璃ヶ丘学園って確かすごいお金持ちの人がたくさん通ってる学校じゃないかな……」 先生方、出身校もすごいなぁ。 「へー、春楓たちの親ってみんな金持ちっぽいし、あの杜って人も育ち良さそうな感じだよなー」 「確かに……」 「それよりも、忘れてねーよな?罰ゲームの話」 クラスに戻るその一瞬、浩が僕の肩を抱くと耳元でボソッと言う。 「楽しみにしてろよ、ももセンセ」 「…………っ……」 見られてるかもしれないのに、浩はぼくの耳にキスをすると、自分のクラスに戻っていった。

ともだちにシェアしよう!