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第133話

目が覚めた時、僕の傍には浩が眠っていた。 「おはようございます、昨日は怖い思いをさせてしまい、すみませんでした……」 「い、いえ、そんな……」 起き上がると、はるき先生が柔軟体操のような事をしていた。 その口調も目線も、いつもよりは優しく感じる。 「休んでいても大丈夫ですよ。まだ5時半なので」 「えっ、そうなんですか。でもぼく、一度起きちゃうとなかなか寝付けないので大丈夫です」 先生、それよりもっと早く起きて身体を動かしてるっていう事だよね。 「そうですか。それなら少し話をしたいのですが……君は浩の事をどう思っていますか?」 「えっ、えーと……」 どうしよう。 本当の事、話していいのかな。 でも、昨日の事があったから、今更誤魔化してもはるき先生に通用しない気がする。 「ぼくにとって浩は甘えられる人というか、一緒にいて欲しい人というか……」 「そうですか。浩に好意を寄せている、という事ですね」 「……はい。最初は浩にセフレになろうって誘われて、ぼくも妻との事を忘れたかったので優しくしてもらえるならいいかなっていうくらいだったんです。でも、浩は意地悪な事も言ったりしたりするけど、すごくぼくの事を大事にしてくれてる気がして、それで……」 浩にも言ってない気持ちを、恥ずかしかったけど先生に話してしまっていた。 「……恋人ではないが身体の関係はある……という事ですね」 「はい……ちょっと前からですけど……」 ぼくの言葉に、はるき先生は溜め息をついた。 「浩は今まで恋人関係になって問題を起こしたから、君とはそういう関係にする事にしたんだと思いますが……君はそれでも構わないんですか?」 「はい。浩は悠太郎にも優しくしてくれているので、ぼくは今の関係で十分幸せです……」 そう。 浩はぼくを十分満たしてくれてる。 これ以上望むのは贅沢だ。 「……では逆に、君は浩の過去がどんなものであっても一緒に背負っていけますか?」 「え?」 はるき先生の表情が少し怖くなった気がする。 「浩が記憶喪失なのはご存知でしょうか?」 「え、えぇ、詳しい事は知りませんけど、記憶喪失なのは本人から聞いています」 「僕は……というか、春楓、僕、春翔の3人と園長先生は彼の過去を知っています。もし、浩の事を心から想っているのなら、君にはそれを知って浩を支えていく覚悟をして欲しい。これから先、浩が記憶を取り戻したとしたらひとりで抱えて生きていくにはあまりに重すぎると僕は思います」 「そんな……」 はるき先生の表情と言葉から、浩の過去に何かとても辛い出来事があったという事が伝わってくる。 「僕たちも園長先生も浩の事は今後も見守っていくつもりですが、浩が求めているのはいつも傍にいてくれる、自分がどうであっても受け止めてくれる存在だと思います。君がその気になったら教えてください」 「……はい……」 はるき先生に言われてぼくはなんとなく返事をしてしまったけど、心の中では全く整理がついていなかった。 「あと……君たちの関係は勿論口外しませんが、僕たちの関係も口外しないようお願い致します」 「分かりました」 「長々とすみませんでした。僕はこれから春楓たちと外を走ってきますが、ゆっくり休んで下さい」 そう言って、はるき先生は部屋に向かって歩いていった。

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