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第140話
「……では、話しますね。先程も言いましたが、あくまで可能性があるだけの不確かな話です……」
はるき先生は浩の弟さんが一家心中の前に亡くなっていた、しかも殺された可能性が高い事を話してくれた。
ぼくは、その言葉に驚きを隠せなくてまたはるか先生の腕を強く掴んでしまい、先生はそんなぼくの頭を撫でてくれた。
「警察の方から渉くんの首に締められた跡があったと聞いたんです。僕らがそれを知った時、ご遺体は既に火葬されて誰がそうしたかまでは分からなかったのですが」
「…………」
言葉が出てこなかった。
それって、もしかしたら浩の可能性もあるっていう事……だよね。
「あいつ、家に泊まりに来るとたまに寝言を言ってたんだけどさ、たった一度だけだけど、『それが渉にとって一番苦しまないなら』って言ってた事があったんだ。やったかどうかは別として、浩は渉くんが先に死んでしまうという事は知ってたっぽい」
はるか先生が言った。
「そう……ですか……」
こんな。
こんなに悲しい過去が浩にあったなんて。
「だからさ、このまま忘れてた方がいいっていうのが園長先生と俺らの見解。夢を見て思い出さねぇか、そしたら浩はどうなるのか、この6年間ずっと心配してんだよ」
はるか先生はそう言ってぼくを一度ギュッと抱き締めると、ぼくから離れた。
「てなワケで。もも、浩の事よろしく頼む。男女関係めちゃくちゃだったあいつを大人しくさせてるお前ならあいつを支えられるって俺たちは信じてる。あ、でも困った時は俺たちに遠慮なく言えよ」
「あ、ありがとうございます」
こう言うのが正しかったか分からないけど、ぼくは、はるか先生に向かってお礼を言っていた。
「他に気になる事などはありませんか?」
はると先生が尋ねてくる。
ぼくはひとつだけ知りたかった事があった。
「あの……浩はその悲しい出来事までどういう人生だったのかは分かっていないんですか?」
辛い事ばかりじゃなかったはずだ。
幸せな事もきっとあったはずだ。
ぼくはそんな浩の話を聞いて、少しでも気持ちを落ち着かせたかった。
「そうですね、浩が通っていた高校をどうにか突き止めて尋ねましたが、浩は家の経済状況を考えたのか3年生になってすぐ学校を中退し、家族を支える為にアルバイトをしていたそうです。それまでは成績優秀、ピアノが上手で合唱コンクールでは伴奏をやっていて、バドミントン部のエース的存在で、友達も多かったと担任だった方から聞きました。一番仲の良かったという人にも会いましたが、僕らの知っている浩そのものだったみたいで、男女問わず人気があったそうです」
はると先生の言葉に、ぼくは少しだけほっと出来た。
やっぱり浩は昔から皆に好かれるような人だったんだ。
それがすごく嬉しかった。
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