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第143話
来年度の入園者も決まり、クリスマスコンサートも無事に終わった2学期。
ぼくにとって、悠太郎の発表会が今年最後の大きなイベントになっていた。
その日はぼくの誕生日で、発表会には母が来たがっていたので前日から家に来てもらっていた。
小さなホールでの発表会。
悠太郎には入園式で着せたスーツを着せたんだけど、サイズがギリギリになっていてその成長を感じた。
発表会の後は母とデパートに行き、クリスマスプレゼントを買ってもらう予定になっていた悠太郎。
ステージに上がった時は緊張した様子だったけど、演奏を始めると落ち着いて、間違えず、とても楽しそうに演奏していた姿はすごく可愛くて、ぼくも母も感極まって泣いてしまっていた。
「悠太郎、しばらく会わないうちに大きくなって……。ピアノを弾いてる姿、小さい頃の陽輔そっくりだったわ」
「そう?悠太郎の方がずっと可愛くて良い子だと思うよ」
毎日一生懸命練習していた悠太郎。
ぼくは上手い下手より、ピアノを弾くのが大好きになってくれた事が何より嬉しかった。
悠太郎が弾き終わり、続いてはるみくんも間違えず上手に弾き終えて、演奏者が座る席に戻ってきていた。
……あれ?悠太郎は?
はるみくんより先だったのに、まだ戻って来ていない。
トイレなのかな。
それにしては時間が長すぎる。
ぼくは嫌な予感がして、ロビーにいたホールの人に聞いていた。
「あの、息子を探しているんですが、グレーのスーツを着ている小さい男の子、見かけませんでしたか?」
「グレーのスーツの男の子ですね。それならおばあちゃんっていう人が迎えに来て帰りました」
「えっ!?そんなはずはないんですけど……」
どういう事なんだろう。
……誰かが悠太郎を連れて行った?
「もも先生、どうかしましたか?」
ぼくが混乱していると、杜さんが声をかけてくれた。
「ゆ、悠太郎が……悠太郎がいなくなってしまって……」
ぼくの様子を見て察知してくれたのか、杜さんはぼくの事を抱き締めて背中をさすってくれる。
「Don't worry 、大丈夫。悠太郎くん、手分けして探せば必ず見つかります」
「あ……あぁ、ありがとうございます……」
身体の震えが止まらなかった。
悠太郎。
どこに行ったの?
誰といるの?
ぼくは……ぼくはどうしたら……。
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