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Candy&Drop(3)
「正直、信じらんねえよなぁ。あの”斉天大聖”がてめえなんぞに負けたとかさ」
「嘘じゃねえってんなら、俺らにもその実力見してみなってよ!」
「ムリでしょ? 何つったって、まぐれ勝ちしただけだもんなぁ?」
「それともナニか? まぐれじゃねえってんなら、今ここで俺ら全員相手にしてみるか!?」
ギャハハハと品のない高笑いが湧き上がった時だった。
「正直うぜえ――。そこを退け!」
初動なしの一撃ストレートと共に秋夜はそう言い放った。
今の今まで秋夜の胸倉を掴み上げていた男は道端へと倒れ込み、呻き声も儘ならないままうずくまってしまった。
拳一つでこのザマだ。やはり秋夜には頭と崇められるだけの腕も度量も備わっているのは認めざるを得ない事実なのだろう。だが、顔立ちが綺麗すぎることや、細身で厳ついタイプでもないことから、川東の連中にとっては素直にそれを認めたくはないという思いが強いらしい。加えて、見るからに女にモテそうな秋夜に対しての嫉妬もあるのだろう。男前で喧嘩も強いとされている彼のことが目障りで仕方ないというのが本音だったようだ。
「……ッの野郎! ふざけやがって!」
「フクロだ、フクロ! 殺っちまえ!」
全員が一斉に押し寄せて、まさに袋叩きにされ掛かった瞬間だった。
「おい、てめえら何してやがる!」
地鳴りのするような低い怒号で、一同はピタリと動きをとめた。
見れば、そこには桃陵学園の源真夏が立っていた。”斉天大聖”といわれた張本人だ。
秋夜とは正反対の濡羽色の黒髪が艶やかで、顔立ちこそ男前ではあるが、体格はガッシリとしていて風貌も備わっている。同じ不良の頭でも、彼のような男になら腹を見せるもやぶさかでない、誰もがそんなふうに思っているようだった。
その真夏がみるも不機嫌に眉をしかめ、鋭い視線の中には怒りの焔が灯っているかのようで、眼力だけで身震いがしそうなオーラをまといながら睨みを据えている。
「やべッ! 斉天大聖だ……!」
「クソッ……何でヤツが……」
「撤収だ、撤収! ズラかんぞ!」
その姿を見るなり、秋夜を取り囲んでいた川東の一団は瞬時に蒼白となり、蜘蛛の子を散らすようにしてその場から引き上げていった。
◇ ◇ ◇
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