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Candy&Drop(6)

「……っ……うッ!」  コンクリートの壁面へと押し付けられ、行き場を失ってしまう。腕はひねり上げられたまま、身動きさえ儘ならなかった。  ハァハァと荒い吐息が両肩を揺らし、言葉さえもすぐには出てこない。完全な敗北だった。 「気は済んだか?」 「……ッ、クソ……やっぱ、てめえ……わざと……」  何度やり直そうが結果は同じだろう。攻撃の全てをかわされ、かすりもしない。きっと彼が本気を出せば、一撃でこの場に沈められたことだろう。だが、彼はそうしなかった。攻撃もせずにかわすばかりで、挙句、いとも簡単に動きを封じられてしまった。真夏の思うところが掴めずに、秋夜は困惑させられた。 「何なんだよ、てめえ……ッ。ワケ分かんねッ!」 「俺の勝ちってことでいいんだな?」 「……ッ」 「俺が勝ったら何でも言いなりになる、そう言ったな?」 「……くッ……!」 「どうなんだ。――北条?」 「ああ……言った」 「だったら条件を言おう。俺は勝敗を覆す気はねえ。表向きは一年間、お前の下で用心棒扱いでいい」 「はぁ……ッ!?」 「その代わり――俺の欲しいもんも貰う」  真夏はそう言うや否や、秋夜の身体を正面に向かせると、そのまま壁に押し付けて両の腕で彼を囲うように掌をべたりと壁についてみせた。俗にいうところの”壁ドン”体勢である。 「は!? 何だよ、これ……」  秋夜は驚きに目をひん剥いた。と同時に唇が重ねられ、ほんのわずか触れるだけのキスを仕掛けられて絶句させられてしまった。 「なっ……!? てめ、こ……」  しどろもどろで言葉にならない。 「無理強いするつもりはねえ。一年掛けて、もしもお前がその気になってくれたら……お前自身を俺にくれ」 「ッ……はぁッ!?」 「それが俺の条件だ」  真夏はそう言うと、薄く笑って壁ドン体勢を解いた。  硬直状態のままの秋夜に背を向けながら、そそくさと歩き出す。  壁にもたれたまま、いつまで経っても動こうとしない、否――動けずにいる秋夜を振り返ると、照れ隠しの為か仏頂面でボソりと呟いた。 「おい、帰るぞ」  そんな彼の横顔に夕陽が反射して橙色に染め上げている。 「ちょっ……待てって……! てめ、何考えて……」  そう怒鳴るも、声は裏返り、上手くは言葉にならない。しかも突然のキスのせいでか、頬は熱を持ちドキドキと心拍数までが速くなる。

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