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無自覚な恋情(4)
「……べ、別に……構わねえ。つか、毎日の送り迎えなんて必要ねえしよ……。てめえにもいろいろ都合ってモンがあるだろうが」
「俺が好きでやってることだ。お前にゃ迷惑なことかも知れねえが――」
「別に……迷惑なんて思っちゃねえけど……よ」
「そうか。だったら良かった」
またもや少々はにかんだ笑顔を見せられて頬が熱を持つ。この気持ちがいったい何なのか、分からないほど秋夜は子供ではない。
この男の前に出ると、どうしてかひねくれた態度になってしまう。ドキドキと心臓が脈を打っては逸り出す。もうごまかし切れない。これを恋といわずに何といおうか――まさに恋情以外の何ものでもなかった。
だが、素直にそれを認めてしまうことができずにいるのもこれまた事実であった。
あの日のキスはいったい何だったのか、今一度はっきりと訊きたくとも、それもままならない。単なる出来心か、あるいはからかわれただけなのか。それとも本気の想いなのか――。
夢に出てくるほどに掻き乱されているこちらの身にもなって欲しい。はっきりとした言葉で『好きだ』とか『付き合おう』とか、明確に示してくれたならきっと素直に受け入れられるだろうに――。
だが、よくよく考えてみれば、そんなふうにしてこの男からのアプローチを待っているだけというのも情けないと思う。かといって、自分から彼の腕に飛び込む勇気も持てずにいる。そんな悶々とした思いを振り切るように苦笑した秋夜の頬に、ポツリポツリと雨粒が落ちてきた。
「……っと、やべえ。降ってきやがったな。それじゃ北条、また明日な」
そう言って足早に駆け出そうとした真夏の腕を、とっさに掴んでいた。
「ちょい待ってろ!」
秋夜は言うと急ぎ玄関へと向かい、傘を手に慌てた素振りで真夏へと駆け寄り、それを差し出した。
「これ、持ってけ」
「いいのか?」
受け取りながら、驚いたように真夏が目を丸くしていた。
「て、てめえにゃいつも世話かけてっから……」
相も変わらずぶっきらぼうな物言いしかできずに、だがそれとは裏腹に頬を朱に染めながら視線を泳がせた秋夜に、
「それじゃ遠慮なく借りてくわ。サンキュな、北条」
やわらかな声がそう囁き、踵を返した大きな背中が去って行った。
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