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無自覚な恋情(5)
それから間もなくして、雨足はあっという間に強くなっていった。ザーザーと音を立てて屋根を叩き付けるような土砂降りだ。
部屋の窓からその様子を見つめながら、秋夜は未だドキドキと心拍数のおさまらない胸を鎮めるように、無意識のまま拳を当てていた。
やはり傘を貸すだけじゃなく、雨宿りがてら部屋に上げて茶の一杯も出した方がよかっただろうか。そんな思いが込み上げる。
「あの野郎、無事に家に着いたのかよ……」
急な土砂降りで風邪など引かなければいいが――。
状況を知りたくとも、今更ながら互いの連絡先も交換していないことに気付かされる。
「……ったく! 携番くらい訊いときゃよかったのか……」
二ヶ月も共に下校しながら、本当に何の進展もないことに歯痒い思いでいっぱいになる。
「源……真夏か……」
またもや無意識にその名を口にすれば、甘苦しい想いにキュッと胸が締め付けられた。
夜半になっても雨は降り続き、一向に止む気配をみせずにいる。ベッドへと潜り込んでも、秋夜はなかなか寝付けずにいた。
「風邪……引いてなきゃいいけどな」
あの後、彼はどうしただろう。せめても無事に着いたと、ひと言でいい。言葉を交したかった。
「ま、無理か――携番さえ知らねんだしな」
そもそも桃陵と四天の番格対決という経緯がなければ、接点さえない間柄だ。彼が毎日校門の前で待っているというのも、勝負に負けたからという理由があればこそで本来は有り得ないことなのだ。
「……何、やってるんだかな、俺も――」
あの男は今頃何をしているだろうか。何を考え、何を見、何を思っているのだろう。うるさいほどのこの雨音を、彼も同じように聞いているのだろうか。そして、よもわくば彼も自分のことを考えてくれていたりすることもあるのだろうか。
秋夜は布団の中で身を丸めながら、指先で自らの唇をなぞっていた。
『無理強いするつもりはねえ。一年掛けて、もしもお前がその気になってくれたら……お前自身を俺にくれ』
あの春の日の告白と――ほんの軽く触れただけのキスが胸を焦がす。
「源……真夏。真夏……真夏……マナ……ッ」
声に出してその名を口にすれば、胸を締め付ける苦しさが痛みに変わるほどだった。
「……っそ! 俺にこんな思いさせやがって……! ちゃんと……責任取れってのよ……!」
ギュッと瞳を閉じて、両の腕で自らの肩を抱き締めた。
いつの日か――この肩を彼の逞しい腕が抱き包むことがあるだろうか。触れるだけのキスなんかじゃなく、息もできないくらいの強く激しい口付けに閉じ込められる時がくるだろうか。
気付いてしまったこの想いを――もうごまかすことなんかできない。もう知らない振りなんかできない。張り裂けんばかりの恋の苦しさと闘いながら、秋夜は一人、眠りへと落ちていった。
◇ ◇ ◇
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