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無自覚な恋情(6)

 次の日の朝は昨夜の雨が嘘のように快晴となった。蒸し暑さが夏の訪れを感じさせる季節の到来だ。きっと今日も放課後になれば、あの源真夏が校門の前で待っているのだろう。眩しいほどの夕陽の中、肩を並べて帰ることができるのだ。それを思うと何だか心が躍るようで、自然とたゆたう笑みが頬をゆるませる。  そんな秋夜を驚かせたのは、玄関を出たところで待っていた源真夏の姿だった。 「――はよ!」 「……ッ! 源……てめ、何で……」  これまで真夏は下校時の護衛に来るだけで、朝の登校の際には迎えになど来たことがなかった。だから秋夜はその姿を見るなりめっぽう驚かされてしまったわけだ。 「これを返そうと思ってな。昨日はホントに助かった」  傘を手に、はにかんだ笑顔でそう言った。少し照れたような独特のその笑顔が秋夜の胸を瞬時に高鳴らせる。 「あ、ああ……傘か。ンなの、帰りでも……つか、いつでもよかったのに……」 「放課後に返そうかとも思ったんだが――学園に持って行って、万が一にも失くしたりしたらいけねえと思ってな」 「……あ、そ、そう……。わざわざ悪かったな」 「いや。お陰でお前を迎えに来る理由もできたし――俺には笑福万来ってところだ」 「……ッ! ンだよ、それ……」  何とも直球な、それでいてやはりどこか意味深な真夏の台詞にカッと頬が染まりそうになる。そんな気持ちを悟られまいと、秋夜は傘を受け取り、そそくさ玄関へと置きに戻ったのだった。 「なあ、北条」 「……何?」 「もし――迷惑じゃなければ――これから朝も迎えに寄って構わねえか?」 「え……ッ!?」 「それと――これも……もしもよかったらなんだが――携番交換しねえ?」 「……ッ!?」 「嫌なら無理とは言わねえが――」 「べ、別に……嫌なんて……思っちゃねえけど……」 「昨日さ、帰ってから礼くらい言いたいと思ったんだが、お前の連絡先も知らねえしで参ったなと思ってよ。せめて携番くらい訊いときゃよかったってな。それに……昨日みてえに遅れるとか、急な用事が入った時とかに連絡手段がねえってのも不便かと思ってよ」 「あ、ああ……。て、てめえが……いいなら、俺は構わねえ……し」 「そうか、良かった」  歩きながらそんな会話を交し、信号で立ち止まると真夏は胸ポケットからスマートフォンを取り出して、例のはにかんだ笑顔をみせた。 「お前の番号――」  何番だ? というふうにクイと首を傾げる。そんな仕草のひとつひとつが秋夜の胸をドキドキと掻き鳴らす。

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