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第3話

 柔らかな律の声が耳元で聞こえる。これでは吉野まで二度寝してしまいそうになる。そう思った矢先に、左耳をぺろりと舐められた。 「……っ」  三年前からピアスホールは増えていない。だから左耳にはピアスホールは開いていない。以前律に「僕の分は開けないの?」と訊かれたけれど、「せんせぇは噛むじゃないですか」と答えたら笑われてしまった。  左の耳介に沿って、丁寧に舌が這う。背すじがぞくぞくする。 「せんせぇ」  思わず律の背中にしがみつく。成長するはずだった身長は、今のところ平均程度までしか伸びていない。だから未だに律の方が吉野より背が高い。  舌の這う水音ばかりが聞こえる。 「ふ……」  息が上手くできない。律の背中しか縋る場所がない。  吉野のその様子に、律が笑う。 「すっかり開発されちゃったねぇ」  律が嬉しそうに笑う意味が、吉野にはわからない。律が嬉しければいいのかな、と思う。ただ吉野はもう少し強い刺激が欲しい。 「せんせぇ、噛んで」  吉野が音を上げると、律が面白いものを見た、というふうに声を上げて笑った。吉野は必死なのに、なんだか律の手のひらの上で踊らせている気分だ。 「せんせぇ」  今度は非難の声を上げる。 「ごめん、りょぉかい」  律にあやされるように頭を撫でられる。それからかたい歯が耳介に押し当てられる。ぎゅっと歯を立てられる。  食べられてるみたいだ、と吉野はいつも思う。多分本当にちょっと食べられてるんじゃないだろうか。こりこりと歯を立てられる。どきどきする。うっすら歯型が残るくらいまで噛まれる。そのあと律の口が離れていくのが寂しい。 「はい、おしまい」  律が顔を上げて、吉野を見てくる。その顔がおねだりする犬のような顔だった。吉野はその意味を知っている。律はキスして欲しいのだ。律からでなくて、吉野からのキスが欲しい。それなのに、まだ吉野からしたことがない。  今日こそは、と思うのだけれど、いざとなると緊張する。今さら何を緊張しているのだか、とも思う。  それでも結局「せんせぇ、遅刻しますよ」と言って逃げるのだ。律も「そうだね」と言って簡単に身を引く。もうちょっと粘ってくれたら、キスできたかもしれないのに、なんて身勝手な思考をする。

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