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第5話 ***
そんなことをしても、からだに一度灯った熱は消えそうになかった。ベッドルームにずるずると這うように戻る。
これからすることにひどい罪悪感を覚える。と、同時にばれなければいいのだ、という開き直りもあった。
もう一度スマートフォンで時間に余裕があることを確認してから、まだ少し律の体温の残るベッドの中に潜り込む。自分の枕ではなく、律の枕に顔をうずめた。おそろいのシャンプーのにおいがする。
「せんせぇ」
呼んでも返事は返ってこない。当たり前だ。それでも呼ばずにはいられない。朝のように、抱きしめて欲しい。でも今の姿は見られたくない。
灯った熱は下半身に溜まっていく。それを手のひらで撫で上げる。
「ふ……」
息がうまくできない。
今朝このベッドで律に組み敷かれたことを思い出して、どきどきする。そういえば律は、こういうときどうしているのだろう。律も吉野と同じことをするのだろうか。吉野を組み敷いて、ソウイウコトをする妄想をするのか。
「せんせぇ、僕、どうなっちゃうの」
せんせぇの頭の中では、僕はどんなふうになっちゃうの。
律にキスされて、大きな大人の手で撫でられて、吉野はどうなってしまうのだろう。
手の中でさらに熱がこもる。くちゅ、と小さな水音が立つ。
その音を耳が拾って、耳も頬も熱くなる。特にさっき噛まれた耳介が、じくじくと熱を訴える。
「せんせぇ、せんせ、」
律の枕に顔をぎゅぎゅと押し付けて、律のにおいを肺いっぱいに吸い込む。律に内緒でこんなことをしていることに、罪悪感と興奮が増す。ばれたら怒られるという気持ちと、ばれたときの律の反応が見てみたい気持ちでぐちゃぐちゃになる。
「は、……ふぁ」
息を吸うと、律のにおいがする。自身への愛撫と相まって、くらくらする。
「ぁ、あ、あ……っ」
射精が近くなる。併せて手の動きが速くなる。手のひらは先走りでべたべたする。
「……っっ」
手の中にどろり、と吐き出した。呼吸が速い。
気怠いからだを引きずって、吐き出したものをティッシュペーパーで拭いとった。してしまって、冷静になった頭が罪悪感で押し潰れそうになる。律に謝りたいけれど、このことを説明するのは、とてもじゃないけれどできそうにない。
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