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第9話***
律はよくこうやって吉野をからかう。今回もそうだったらしく、吉野の頭上からくすくすという笑い声がした。
「吉野くん、耳まで真赤ー」
楽しそうに律が吉野の耳介にキスする。いつもならここで吉野が「せんせぇのばかぁ」と反撃するところなのだけれど、今日は見抜かれたという気持ちが強くて、それどころじゃない。未だに心臓はばくばくと音を立てて苦しいくらいだ。律に抱きしめられたまま硬直している吉野に、律も怪訝な様子をする。
「吉野くん? あれ? 本当に?」
頭上から降ってくる声に、吉野の羞恥心のバロメーターがいっきに上がる。手のひらに嫌な汗をかく。頭が真白になって、何の言い訳も思い付かなかった。仕方なく、吉野は小さく肯首した。
「ごめんなさい」
これも消え入りそうな声で謝罪の言葉をつけ足しておく。
慌てたのは律の方だ。「怒ってないよ? 怒ってない」相変わらず丁寧な手付きで律は吉野の髪を梳いてくれる。その指の動きが艶めいたものに変わる。
「……でもさ、どうやってやったか、教えて?」
吉野にだけ聞こえる声で律が囁く。律の左手が吉野の腰のラインを撫でた。吉野のからだがぴくりと震える。
「……せんせ?」
今日の律はいつもと違う。いつもはじゃれつくだけなのに、今日の律はそこで止める気はないみたいだ。律の指先が、吉野のスキニーパンツと腰の境をゆっくりとなぞる。
「吉野くんが、やじゃなかったら、だけど」
律はそう言うけれど、手先は吉野のスキニーパンツを脱がしにかかっている。そこでようやく吉野は顔を上げた。黒髪から覗く耳まで紅潮した顔で律を見る。
「せんせぇ、キスして」
「は、……んっ」
吉野はぎこちなく律の手を動かす。律の手の中には、すっかり勃ち上がっている吉野自身があった。それが普段とは微妙に違うリズムで愛撫されると、律に触られているという実感が湧く。
「あ、せんせぇ」
吉野は相変わらず律の肩に額をぐりぐりとうずめていて、今朝よりも強い律のにおいに溺れそうでくらくらする。律の心臓の鼓動も聞こえる。からだが火照っている上、律の体温に包まれていて熱いくらいなのに、離れたくない。
律は律で、空いている手で吉野の髪を撫でながら、吉野が呼ぶたびに「なぁに」と柔らかな声で応えてくれる。それに対する応酬ははくはくとした呼吸ばかりで、ろくに言葉にならない。
「吉野くん、いい子」
優しい声とは裏腹に、急に律の指先が先端を強く擦る。くちゅ、くちゅ、と水音が立った。
「あああっ、せんせぇ、それ、だめ……っ」
気持ちよ過ぎて、だめ。
慌てて律の腕を掴んで止めようとするけれど、律が吉野の指示に従う気配はない。水音が大きくなる。それを吉野の耳が拾って、また顔に熱が籠もる。
「うん、気持ちいいね」
律にいいようにされて、吉野の限界も近い。
「あ、あ、」
せんせぇ、手、離して。そう言いたいのに、言葉にならない。代わりに吉野は律の腕にしがみついた。
「──んんっ」
吉野は呆気なく律の手の中に白濁を吐き出した。
「はい、よくできました」
律の満足そうな言葉が、吉野の意識の遠くで聞こえた。
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