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第10話
中途半端に引いたカーテンの隙間から、窓の外の様子が窺える。真暗な夜が淡々と白んでいくさまを、吉野は目で追っていた。背後では律が寝息を立てている。まだ朝晩は冷える日もあるので、他人の体温は落ち着く。けれどその所為で余計に吉野は落ち着かなかった。そもそも昨日の自分の痴態を思い出したら、眠れるわけがなかった。
あのあとぼぅとしていた吉野は、律に湯舟に突っ込まれた。そこで吉野は段々と冷静になっていき、さっきまでの行いに言いようのない羞恥を覚えていた。
何をやっていたんだ、僕は。
頭を抱えてしまう。このあとどんな顔をして律に会えばいいのか、わからない。入浴剤の入った湯の表面に頬をつける。
「……あったかい」
風呂も温かいけれど、あのとき密着していた律の方が熱かった気がする。律の体温と息遣いを思い出して、もう一度吉野は赤面した。墓穴だ。せめて違うことを考えようとすればする程、意識が律に向いてしまう。律のことは好きだし、そういう対象として見ているし、でもだからといって今日突然なんてことは思ってもいなかった。
心の準備っていうものがあるじゃないか。
どれだけ思っていてももう仕方のないことを、吉野は何度となく思い返す。そして結局、
何をやっていたんだ、僕は。
と思考は堂々巡りをする。これで何度目だろうか。お陰で吉野はのぼせるまで湯舟に浸かっていて、律に余計に心配された。
「吉野くん、大丈夫?」
すっかり片付けられたリビングで繰り返し訊いてくる律に、一体どこが大丈夫なんだ、と思ってしまう。けれど言葉にならず、「あ」とか「う」とか曖昧な返事ともつかないものを返した。頬が熱いのは長湯の所為だけではないことに、律は気付いていただろうか。
吉野がそんなだから「今日は自分の部屋で寝ます」と言う間もなく、律にいつものベッドに連れられてしまうのだ。これで何度目かになる、何をやっていたんだ、の自問自答をする。
吉野の腹に回された律の腕に触れる。そこから、つぅ、と指先を滑らせて、律の手に触れる。吉野が好きな手だ。指のかたちを指でなぞっていく。
この手でされたのだ、と思うと、また頬に熱が溜まってくる。律が眠っていて本当によかった。吉野が律をそういう目で見ているのと同様に、律にそういうふうに扱われて、実は安心した、なんてどう伝えればいいのかわからない。
吉野はほとんど眠れず、窓の外は早朝の気配を醸していた。
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