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第12話
「……のくん、よしのくん、起きて」
朝方、吉野は少し眠っていたようだ。律に揺すられて目が覚めた。
「……せんせぇ?」
目を擦りながら吉野は無防備に律を見上げた。律の睫毛がゆっくりと上下する。吉野はそれを目で追ってから、眠る前までの自分の行いを思い返して、顔に熱が集まるのを感じた。慌てて布団を被って、律の視線から身を隠す。
「せんせぇのばかっ」
せんせぇの所為で、せんせぇの顔が見れないじゃないか。
嘘だ。全部吉野が悪い。吉野が自意識過剰になっているだけだ。律に自慰を手伝われたのはともかく、そういうサイトを巡ったのは吉野だ。眠っている律にキスをしたのも吉野だ。わかってはいるけれど、咄嗟に出た言葉はそれだった。
「え、吉野くん? え? ごめんね?」
案の定律が戸惑っている。けれど吉野は律にそんな態度をとって欲しいわけじゃないのだ。
「──っ、せんせぇなんか、せんせぇなんかっ」
布団を被ったまま、ひとりでじたばたと足掻く。
「ちょ、吉野くん」
暴れる吉野から、律が掛布団を奪ってしまう。「せんせぇ」身を隠すもののなくなった吉野が、羞恥で耳まで赤くして律を見上げる。往生際が悪くそれでも顔を隠そうと、吉野は手のひらで顔を覆う。その手を律が掴んで、無理矢理ベッドに縫い付けられる。
「僕なんか、何?」
吉野は律に強引にからだを開かれて、笑顔の律に問い詰められる。律は怒っているのだろうか。恐る恐る律の顔を窺う。吉野の好きな律の顔からは、感情が窺えない。
「吉野くん?」
どうやら吉野が答えるまで、律は手を離す気はなさそうだ。
せんせぇなんか、
「──き、好き、ですぅ」
吉野は律に屈した。小声で答える。それを律はきちんと拾って、目を細めた。
「うん、僕も吉野くん、好き」
そう言ってもうピアスホールの塞がった右耳に、律が顔をうずめてくる。ちゅ、とキスされた。
「うぅぅ」
吉野が呻くと、律が耳元でくすくすと笑い声を上げた。「吉野くん、可愛い」
どうやら律の機嫌はそんなに悪くはないみたいだ。それに吉野は一旦安堵した。それから脇に放り出されたスマートフォンの方に目を向けて、「あ、時間っ」
吉野を抑える律のちからが弱くなる。からだを捻ると、簡単に律の下から這い出ることができた。そのままスマートフォンを拾い上げて、ロック画面を開く。七時二十三分。
「せんせぇ、遅刻しますよ」
吉野は律に発破をかける。律も慌ててベッドから這い出てくる。
「吉野くん、僕のシャツ知らない?」とか何とか言う律をおいて、吉野は急ぎ足で洗面所に向う。まだ顔が熱い。
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