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第14話

 放課後、ドーナツショップで吉野は友人の由比と額を突き合わせていた。食い気味の由比に吉野は少し引いていた。 「で、どうだったんだ?」  注文したドーナツの載ったプレートを早速脇に避けて、由比は身を乗り出してきた。反対に吉野は身を引く。 「どうって、何が」  そういえば律はドーナツを食べるだろうか。ショーケースに並んでいたたくさんの種類のドーナツを思い返して、吉野は買って帰るか迷った。 「『何が』じゃっ、ねーよっ。告白っ、されたんだろっ?」  由比が頭を抱えて、のげ反ったりテーブルに突っ伏したりしている。忙しいやつだ。ブラックのアイスコーヒーを吸いながら、吉野は感心して眺めていた。コーヒーと言えば、律の淹れたものの方が美味しい気がする。贔屓目だろうか。  そうしてようやく、昼間の話か、と納得がいった。なぜその話を由比が知っているのか謎だった。由比は顔が広いから、噂が回っていったのだろうか。それにしても早い。 「された」  今、律に連絡を入れても大丈夫だろうか。余り遅いと夕食の買い物をしてしまうだろう。今日の夕飯当番は吉野だけれど、律は自分用のアルコールを買うついでに買い物もしてくれることが多い。 「『された』じゃねーよっ。結果っ、結果どうなったんだ?」  由比も砂糖とミルクを入れたコーヒーをがぶり、と飲んで吉野に詰め寄る。結果なんて、そんなに知りたいものだろうか。吉野と彼女が知っていればいいことではないのか。吉野は首を傾げた。 「断ったけど?」  それがどうしたというのだろう。噂として出回るにはタチの悪いものだと思う。  そして吉野の頭の半分は、ドーナツがいるか、律にメッセージを送ってみようか、と思案している。テーブルに置きっ放しになっていたスマートフォンに手を伸ばす。 「断ったのかよっ。めっちゃ可愛い子なのにっ」  可愛いかっただろうか。変な緊張をしていたので、そこらへんを検分する余裕はなかった。言われてみれば髪を巻いて、白いレエスのワンピースを着ていた。あれは吉野のために一生懸命考えてくれた服だったのだろうか。なんだか悪いことをした気になる。 「由比は可愛いと付き合うの?」  彼女だって外見がいいという理由で付き合われたら、悲しいんじゃないだろうか。  手元のスマートフォンのロックを解除して、コミュニケーションアプリを開く。律を選択して、「ドーナツ食べる?」と送った。 「そうじゃないけどっ。お前は勿体ないことをした、って言いたい」  由比は今度はドーナツにかぶりつきながら、吉野を指さしてくる。吉野は勿体ないことをしただろうか。律がいてくれれば充分だと思っていたので、それ以上を望むのはちょっと違うと思う。 「そうかな?」  吉野もドーナツに手をつけた。そのとき、ぽん、とメッセージアプリが着信を知らせてきた。律からだ。開くと、「食べる」と返ってきた。自然、口元が緩む。  急いでドーナツとコーヒーを片付けてしまう。 「来宮?」  そんな吉野に、由比は疑問を投げかけてきた。 「ごめん、呼ばれちゃったから、帰る」  もう頭の中は、どのドーナツを買って帰るかで、いっぱいだ。ふたりで十個はさすがに多いよな、と計算もする。 「呼ばれた、って」  呆れる由比を残して、トレーを返却口に戻してくる。 「僕の好きな人から、だから」  改めて言うと口元が緩む。ごめんね、と言って吉野は席を立った。

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