18 / 39
第18話
それから数日は吉野も大人しくしていた。ただ世の中には「のど元過ぎれば」という諺があり、それは吉野にも当てはまった。
あのときのせんせぇは、あれはあれでよかった気がする。
バスタブに浸かっている吉野は、まったく懲りていなかった。今のままではほとんど子供扱いである。吉野は律の特別になりたい。選んで欲しい。それは性的な意味でも言える。問題はどうやって選んでもらうか、だ。吉野から迫っても相手にされないんじゃ意味がない。
湯舟は温かくて、からだはぽかぽかして、頭は回らない。
あのときの、口元は薄っすらと笑っているのに、目は全然笑っていなかった律が頭の隅をちらつく。感情のこもらない声で「吉野くん」と呼ばれたい。意地悪な愛撫をされて、泣いてしまいたい。
「せんせぇ、好き」
小さく呟いた言葉は湯舟の中に溶けて消えていった。
結局のぼせる寸前まで湯舟で考えたけれど、何も良策は思い付かなかった。律に髪を乾かしてもらっている間も、まったくだめだった。逆に「吉野くん、何悩んでんの?」と訊かれてしまう。
「なんでもないですぅ」
答えた声が不貞腐れていたのは、ご愛敬だと思って欲しい。全部律が悪いのだ、と責任転嫁したくなるけれど、それでは前進しない。吉野は悩むだけ悩んで、最後は強行突破しかないんじゃないだろうか、と思って溜め息を吐いた。吉野の心の内を知らない律はのん気だ。
「吉野くん、思い詰め過ぎ。大抵のことはなんとかなるもんだよ」
ドライヤー片手に吉野を見る律の目は、生徒を緩く諭す先生の目だ。一体誰の所為だと思っているのか。
「なんとかなるものなの?」
吉野が上目遣いで律を見上げて尋ねる。「なるよ」と律はまるで自分のことだとは思っていない口振りで答えた。
「それじゃあ、さ、」吉野は振り返って、律からドライヤーを奪うと両手首をそれぞれの手で掴んだ。「セックス、して?」
「なんとかなるんでしょ、せんせぇ?」
捕食性の動物のようだといわれる目で律を見上げて、その手首を掴んでいた腕を首に回す。ぽかん、としている律に唇を重ねる。性急に律の唇を割って、中に舌を侵入させる。律の舌を探して、見付けると絡めて吸い上げる。動きはぎこちないから律はいつでも吉野を押しのけることができたはずだけれど、律はそうはしなかった。吉野の拙い愛撫を受け入れてくれている。
「ん、……っ」
急に律に舌裏を舐められて、吉野は鼻から抜ける声を上げた。思わず唇を離す。どちらのものともわからない唾液が細い糸を引いた。それをちゅ、と律が吸いとる。
「僕、吉野くんのそういうところ、好きだよ」
*****
次から3話続けてえちを更新しますので、苦手な方はご注意下さい。
大丈夫な方は、お付き合いいただけると幸いです。
ともだちにシェアしよう!