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閑話休題(閑話休題。-前半)
カーテンの隙間から差し込む朝日に、吉野は目を擦る。今日は日曜日だから、アラームは鳴らない。隣で律はまだ寝息を立てている。それを確認して、吉野はそっとベッドから抜け出した。
裸足の足でぺたぺたと廊下を歩き、ほとんど使っていない自室に向かう。部屋に入るとTシャツとハーフパンツを脱ぐ。代わりに高校三年間着ていた制服に袖を通す。夏服なので、校章の刺繍の入った皺ひとつないワイシャツと、グレーのスラックスだ。せっかくなので、白のソックスも履いておく。一応姿見で確認してみると、悲しいかな、周囲の予想よりも成長しなかったので、制服はピッタリのサイズだった。ワイシャツのボタンをいちばん上まで留めて、癖のない黒髪にノンフレームの眼鏡の姿は、本物の高校生といっても違和感はなさそうだ。
これを見たら、律はどんな顔をするだろうか。吃驚する顔を予想して、吉野は捕食性の動物と言われる目を楽しそうに細めた。
姿見で前後を確認すると、律の目が覚める前に寝室に戻る。律は寝起きが悪いから、多分大丈夫だ。それでも足音を忍ばせて、そっと律に近寄る。ベッドに手をついて、体重をかける。
「せんせぇ?」
声をかけるけれど、律が起きる気配はない。律の寝顔は嫌いではないけれど、ぷくぅ、とちょっと吉野がむくれる。
別に、それならそれで、いいけど。
ベッドに完全に乗ってしまうと、律から夏掛けの布団を剥いでしまう。「んむぅ」と変な呻き声を上げる律に、吉野は小さく笑った。Tシャツの裾が少し捲れてへそが出ていたので、直してあげる。それから律の腹の上を吉野が跨ぐ。軽く体重もかけた。
「せんせぇ」
もう一度律を呼ぶ。律の目蓋が震える。もう一息だ。眠る律の両肩に手をついて、耳元で「律せんせぇ、起きて?」とトドメを刺す。
律の目蓋がゆっくりと持ち上がった。その目が腹の上の吉野に向けられる。焦点を結ぶ。途端に律は目覚めた。「っっっ」
反射的にからだを起こそうとするけれど、腹に吉野がいるので思うように動けない。そして律はなぜか部屋の様子を確認している。
「せんせぇ、よそ見しちゃ、だめです」
せっかく起きたのだから、吉野を見て欲しい。律の腹を両腿で抑え込んで、頬を両手で掴んで正面に向かせる。
「きのみや……」
懐かしい呼ばれ方をして、吉野はふふ、と笑う。伸びてきた律の手をとって、吉野は指を絡める。
「懐かしい呼び方をしますね」
律の手を握る指のちからを強めたり緩めたりして、吉野は律の手の大きさを改めて確認する。指先で律の手の甲の骨ばった部分をぺたぺたと叩いた。
「せんせぇの手、大きいですね」
満足げに律の手を堪能していると、「吉野くん、下りてよ」と律がお願いしてきた。
吉野はこてん、と首を傾げて、当然「嫌です」と答えた。それから少し考えて、口を開く。
「制服の僕は嫌い?」
律は、そうじゃないんだけど、と言いたそうに眼を泳がせた。
「ああ、またよそ見をする」
せっかく律が吉野を見てくれていると思ったのに、と思うと、吉野はまたぷくぅと頬を膨らませて、律の剥き出しの額に額を重ねてきた。吉野の視野が律でいっぱいになる。
「せんせぇの睫毛、数えられそうです」
吉野はご機嫌だ。ただこれだけ近いと、「キスしたいですね」
言うなり、吉野はちゅ、と律の頭のよさそうなかたちの額にキスを落とした。それから立て続けに額に三回、左右の目元にひとつずつ、鼻の頭は唇で食むように唇を這わせて、頬をぺろりと舌先で舐め上げた。
「吉野くん、くすぐったい」
律もくすくすと笑う。律が吉野を見てくれていることを確認すると、吉野は絡めていた指を解いて、律の唇を人差し指で撫でてから自身の唇に押し当てた。
「口へのキスはせんせぇからして下さい」
ね?と小首を傾げておねだりをする。
「吉野くん、タチが悪いよ」と律はゴチて、吉野の首を寄せてきた。それに素直に従うと、律がちゅ、と触れるだけのキスをしてくれた。それじゃ、足りない。吉野が律に食い付く。
吉野が満足するまで律を食べつくしてしまってから、ようやく律は解放された。その律は何とも言えない顔をして、吉野を見上げてくる。
「……吉野くん、責任とってよね?」
律が吉野に自身の腰を押し当てる。途端に吉野の顔が赤くなった。
「せんせぇの変態っ」
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こちらは『齧って。』の「閑話休題」ネタです。
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