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第22話

 日曜日は律と買い物に行く約束をしていた。待ち合わせは十一時で、律は職場に寄ってから来るらしい。朝そんなことを言っていた。  場所と時間を約束して、待ち合わせて出かける。それって、デートみたいじゃないか。それに気付くと、吉野は急に浮足立ってしまう。そもそも律とはほとんどデートをしたことがなかった。吉野が高校生の間は勿論、大学に入学が決まった春に押し掛けるように同棲をはじめたので、律とのスタンダードなデートの機会はほぼなかった。  どうしよう、何を着て行けばいいんだ。  そんなことを悩んだところで、愚問だった。春に買い出した洋服はほとんど律と買っている。つまり、律は吉野の大抵の恰好は知っている。吉野だって朝律を見送ったのだから、律の恰好はわかっている。  でも、律に釣り合う恰好って、何。  吉野が持っている服は大学生の私服らしさはあるけれど、二十九歳の律の隣に立って釣り合う服装は持ち合わせていない。少しでも大人っぽいものを、と思ってクローゼットをかき回す。  モノトーンがいいのか。Tシャツじゃなくて、シャツがいいのか。パーカーはさすがに暑い。  そんな些細な洋服選びのくせに、いつもだったら五分で決めてしまうところを、吉野は三十分以上かけた。その頃には、何を着たところで大体が律の見立てであるし、律は周到で変な組み合わせにならないように見立てられていることに、気付いた。ボートネックのカットソーにいつものブラックデニムのパンツを着てみて、姿見の前に立つ。  多分そんなに変じゃないはずだ。  正面を確認して、うしろも振り返って確認する。そのとき鏡の前で少し前かがみになってみたときに、鎖骨の下に赤い点を見付けた。 「?」  この時期に虫刺されだろうか。覚えがない、と首を傾げた矢先に、先日そこを律に強く吸われたことを思いだした。 「……っ」  せんせぇのばかっ。  今から服を変える時間はないだろう。悩んだ末に絆創膏を貼って行こう、というところで落ち着いた。  絆創膏を探すのに五分、洗い忘れていた不揃いのマグカップとコーヒーメーカーを洗うのに十分、もう本当にそんなに時間はない。  慌てていつもの鞄を持とうとして、今日はルーズリーフはいらないんだ、と思い直す。ボディバックに財布と鍵だけ詰めた。律とおそろいの鍵だということに、胸がじわっとする。  最後に姿見でもう一度確認する。どう頑張っても律と並んだら、これは子供だ。でも律の見立てたものを着ているし、そんなことは律も充分承知なのかもしれない、と思い直すことにした。  狭い玄関でハイカットスニーカーに足を通して、鍵をかけた。

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