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第23話
駅までは徒歩で十五分程かかる。自転車が欲しいな、とも思うけれど最寄り駅は中核ターミナル駅で、駅前は繁華街だ。自転車を止める場所はほとんどない。駐輪場のレンタル料もあるし、バイト代は無限にはない。やっぱり徒歩だろう。
朝、律と見たテレビでは「今日は初夏の日差しでしょう」と天気予報が言っていて、それは部屋を出て五分で実感した。まだ午前中なのに、日差しが強い。なるべく日陰を選んで歩いたけれど、薄っすらと汗をかく。
これは、ちょっと、アイスが食べたい、かな。
帰りも暑かったら、コンビニに寄ろう。コンビニから家までの距離を目算して、多分アイスクリームは溶けないはずだ、とあたりをつける。
そんなことをしていたら、最寄り駅には約束の十分前に着いた。そんなに早く着く必要はないのだけれど、浮足立っていたのだから仕方がない。けれどすぐに手持ち無沙汰になって、スマートフォンを開いた。あまり考えずメッセージアプリから律を選択する。
「駅にいる」と打とうとして、これは律を急かすことになるかな、と思い直した。そのまま画面をスクロールして、律とのやり取りを見直す。どれも味気ない。スタンプもなければ、メッセージひとつひとつも短い。
なんだか、本当に好きなのかわかんない文だな。
実際は間違いなく好きなのだけれど、そんな甘い言葉の応酬もない。
「ごはん何食べる?」
「カレー」
「買う?」
「作ったやつがいい」
そこで既読がついてメッセージが切れている。色気も何もない。律はもっと可愛らしいメッセージを貰いたいだろうか、などと思う。不毛だ。今さらどうしようもない。せめて、ハートのスタンプでも使うか、と思ったりもしたけれど、この味気ないメッセージのどこにそんなものを使えばいいのか、わからない。
時間を確認する。十時五十六分。もうすぐ律が来る。次の電車だろうか。そのとき、「来宮」と声をかけられた。反射的に振り返ると、由比とその友人たちがいた。
「何してるの?」
今日は日曜日で大学は休みのはずだ。
「ん。遊びに。来宮も来る?」
そう誘ってくれる由比に、友人のひとりが声をかけた。小声で聞き取れなかったけれど、恐らく、来宮はデートの待ち合わせだろ、といった内容を口にしていたと思う。由比の表情が変わった。由比にはこの間、吉野に好きな人がいる話をしたから、それを思い出したのかもしれない。
吉野の方を指さして、口をぱくぱくしている。
「ただの待ち合わせだよ」
吉野は訂正しておく。律はデートだなんて一言も言わなかった。勝手に吉野がそう思って舞い上がっていただけだ。
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