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第24話
「吉野くん?」
今度こそ吉野の心臓は跳ねた。律だ。改札から出て、吉野を見付けたらしい。麻のジャケットを着た律は、確かに吉野たちとは違った大人の印象がある。由比たちも突然の律の登場にぽかんとしている。子供のじゃれ合いに大人が出てきたのだから、当然だ。「誰?」「『吉野』?」「来宮の知り合い?」とかなんとか囁いている声が聞こえる。
「せ──」
先生、と呼ぼうとしてそれは不味いのか、と思い直す。由比たちにいらぬ憶測と警戒を与えてしまいそうだ。それならば、三島さん、だと遠い感じだろうか。律、では違和感がある。一瞬迷って、結局吉野は「律、さん」と返した。
律は近付いてきて、「こんにちは」と人当たりのよい挨拶をした。大人の対応だった。由比たちも、釣られるように「ちわ」とかもそもそと挨拶を返す。それから吉野の方を見て、「吉野くんの友だち?」と訊いてきた。
「そうです、由比くん」
吉野は律に由比を紹介する。律は大人の笑顔で、「ああ、君が由比くん。吉野くんから話を聞きます。三島律です」と対応した。対する由比は「はあ」とか「うん」とか煮え切らない。というよりも、矢面に立たされたことに戸惑っているようだ。なんだか由比に悪いことをしてしまった。
「吉野くん、由比くんたちと遊びに行くの?」
律は意地悪なことを訊いてきた。吉野は律と待ち合わせをしていたのであり、由比たちとはたまたま出会っただけだ。約束をしていたのはあくまでも律なのに。由比たちにばれないように、下から律を睨みつけた。律は口元だけで笑う。
「僕は、律さんと、約束していたので」
一言一言、わざと区切って強調してみた。それは主に律に向けて言ったものだったけれど、由比たちにも効果はあったようで、「そっか」や「悪かったな」と返された。
「あ、えっと、そういう意味じゃなくて、」
慌ててフォローしようと由比に目をやるけれど、由比は「すまん」というジェスチャーをしていた。吉野が当てつけたのは律に対してであって、由比たちではないのだ。謝りたいのは吉野の方だ。
それなのに律は面の皮が厚い。
「そうなの? それじゃあ、由比くん、悪いね」
人のよさそうな笑顔を由比たちに向けている。どの顔がそう言うのか。自分は大事なことを言わずに、吉野に全部言わせた。
ふたりで由比たちを見送ってから、「それじゃあ行こうか、吉野くん」と律に肩を叩かれる。
「……せんせぇ、大人げないですよ」
律は何度も吉野を「吉野くん」と呼び、「来宮」とは一度も呼ばなかった。吉野に「律と約束しているから」と言わせて、自分の優位性を吉野に示させた。やっていることが大人じゃない。
それなのに律は「そうかな?」とすっとぼけてみせて、「そういえば『律さん』っていいね。また呼んでよ」などと言う。
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