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第26話

 しばらく吉野は大人しく律に手を引かれて、ショーウィンドウの向こう側を眺めていた。強い照明がガラスの向こう側をきらきらときれいに見せている。それは洋服だったり、靴だったり、鞄だったり、高級文房具だったり、様々だった。そしてそこに薄っすらと映り込む、律と手を繋いだ吉野がいたりする。やっぱり律と並ぶと、吉野はまだ子供だ。その事実にそっと嘆息する。十歳差は永遠に埋まらない。  律はどう思っているのだろう。吉野を子供っぽいと思っているだろうか。もっと釣り合いそうな大人と付き合えばよかった、と後悔していないだろうか。ふと律が振りかって吉野を見たので、どきりとした。 「疲れちゃった?」  ふるふると首を振る。それを律は微笑んで見ている。こういうとき、もしかしたら律は全部お見通しなんじゃないか、と思うときがある。 「じゃあ、お腹空いたから、ごはん食べない?」  そう言われたら、断れないじゃないか。吉野は今度は肯首した。そうすると律は嬉しそうに、「何食べる?」と訊いてくる。こういうとき「なんでもいい」はだめなんだよな、と律と生活していく上のルールで決めたことを思い出した。 「パスタとカレー以外」  パスタはこの間のことを思い出しそうで、それは律に対してか、告白してくれた彼女に対してなのか、とにかく不義理を感じてしまいそうだった。そういえば律はなんで吉野と付き合っているのだろう。ただの好奇心だったら嫌だな、と思う。  吉野の内心、律知らず。「了解」と言うと、律はてきぱきと店を決め、「オムライスは?」と訊いてきた。文句はない。そのとき吉野は気付かなかったけれど、このフロアにイタリアンの店が三店舗はあったことを考えれば、随分な難題を提案したことになる。  丁度昼時だったから列には並んだけれど、十五分程度待たされただけで、すぐに店内に案内された。客層は女性同士やカップルが圧倒的に多い。みんな幸せそうだ。吉野のような悩みを抱えながら食事をしている人なんて、いるのだろうか。  案内された席に向かい合って座って、メニューを開く。スタンダードなオムライスから、ホワイトソースのかかったもの、オムドリアなるものまでたくさんあった。 「吉野くん、どうする?」  どうしよう。律は何にするのだろう。その律に釣り合うものは何だろう。思わずメニューを持って唸ってしまう。  それを見た律が、「そんなに悩むなら、半分ずつ分ける?」と笑って提案してきた。そうじゃないんだけれど、伝わらない。悩ましい。もう一度吉野は口の中で唸った。

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