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第27話

 注文してから食事の届くまでの間は間が持たなかった。律が「どうしたの、吉野くん」と訊いてくれるのに、吉野がまともに答えられないのだ。こんなこと今までなかった。  律は吉野のことをどう思っているのだろう。すぐに我儘を言って、子供っぽくて、不満があるとか。知りたいけれど、知りたくない。答えは吉野に都合のいいことばかりではないのだ。律に否定されたら、どうしていいのかわからない。  このとき、以前告白してきた彼女のことを思い出した。あの子もこんな気持ちだったのだろうか。告白の返事は「YES」ばかりとは限らない。同じだけ拒絶されることもあるのだ。その可能性があったのに、吉野に告白してきた彼女は、今の吉野より強い。 「吉野くん?」  さすがに様子がおかしいと思ったらしく、律が吉野の顔色を窺ってくる。その視線から逃れるようにして、「せんせぇは、」と渋々口火を切った。 「せんせぇは、なんで僕と付き合ってくれてるんですか?」  これは律の予想外の質問だったらしく、一瞬きょとんとされる。それから律が口を開くまでの間の時間が、とても長く感じられ、心臓がばくばくと脈打ち、手に嫌な汗がじわりと滲み出た。お手拭きを何度も握ってみる。  律がコップの水で唇を湿らす。これから判決が言い渡されるのだ、と思うと、時間なんか止まってしまえばいい。心臓が痛い。 「僕は、吉野くんに惚れちゃったから」  へら、と律が照れた。ほんのりと頬を染めている。ふ、と吉野の肩からちからが抜けた。律は、犬が尻尾を振っているような雰囲気で、可愛い。場所が場所なら、頭を撫でてあげたい。 「……せんせぇ、頭撫でてあげましょうか?」  我慢できなくて、吉野は一応提案してみた。ちょっとでいいから、頭を撫でてあげたい。 「吉野くん?どうしたの?」  素直に、す、と頭を差し出してくる律もどうかと思う。その額に近い部分を指先で撫でてあげる。ついでに「グッドボーイ」と言いそうになるのは、さすがに飲み込んだ。 「僕、せんせぇに釣り合わないな、って思ってました。せんせぇよりずっと子供だし、我儘言うし、せんせぇは呆れてるのか、って」  正直に吐き出してしまうと、一緒に今日朝から背負っていたものも下りるような気分になる。律は吉野の告白を聞いている間中くすくすと笑っていた。 「なんで笑うんですか」と吉野がむくれると、「だって、それは当たり前のことじゃない。そこが吉野くんのいいところだよ」と律は目を細めて返してきた。

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