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第28話

 注文したオムライスは卵がとろとろだった。スプーンで中の米と一緒に掬って口に運ぶ。 「吉野くん、これ、家で作れない?」 「作れないです。せんせぇが頑張ればいいじゃないですか?」 「できるかなぁ」 「できたら、『律さん』って呼びます」 「頑張ろうかなぁ」  そんなろくでもない、中身もない、普通のカップルがするような会話ができた。律のお陰だ。帰ったら、「グッドボーイ」と褒めて、いっぱい撫でてあげたい。 「吉野くん、何考えているの?」  律が訊いてくるけれど、「内緒」と答えておいた。いくら律でも犬のように扱いたいと思われているとしたら、いい顔をしないだろう。  綿菓子のようなふわふわの会話を続けていたら、食事を摂り終える頃には吉野の不安も払拭された。 「ごちそうさまです」  レジで会計を済ませてきた律に、吉野は頭を下げる。律は「デートだもんね」と鷹揚に笑う。これはデートだったのか。てっきり「ただの買い物じゃなかったんですね」と言ってしまう。きょとんとする吉野に、律もきょとんとした。 「デートだよ。吉野くんと一緒に出かけるんだもの」  その言葉に吉野の心は晴れやかになるから、現金なものだ。律はちゃんと吉野を恋人として扱ってくれているとわかると、吉野の大概の不安は霧散した。今度は吉野の方から律に右手を差し出し、「手、繋ぎたいです」と言う。律は小さく微笑んで、「了解、王子さま」と吉野の手を左手でとった。 「で、何買うんですか?」  律の隣で吉野が尋ねる。相変わらず人通りが多くて、上手く避けないとはぐれてしまいそうになる。また前方から会話に集中している男性三人組がやってきた。律の方を向いていた吉野は反応が遅れて、ぶつかりそうになる。「吉野くん」そのとき律が吉野の腕を引いて抱き寄せてくれた。急に律の胸の中に収まった吉野は目を白黒させて、無闇にどきどきとする。このどきどきは律には聞こえているだろうか。 「ありがとぉ、ございます」  そっとからだを離す。吉野は吃驚してしまって、まだどきどきが止まらない。「どういたしまして」律が柔らかく目を細めて、吉野の手を引く。吉野はそれに大人しくついていく。 「えっとね、コーヒー豆が切れちゃったから豆と、それとあと吉野くんとおそろいのマグカップを買うよ」  そう言いながら律は、「吉野くんは何か欲しいもの、ある?」と訊いてくる。吉野は律にくっついていくことばかり考えていたので、自分の用件は考えていなかった。 「僕は、特にないです」  せっかくここまで来たのに、用事がないのは申し訳ないような気もする。「あ」吉野は小さく声を上げた。そういえば駅に行くまでの間に「帰りに、アイスが欲しいです」と思ったことを思い出した。  こんな些細なことでも、律は「うん」と笑ってくれた。

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