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前編 真っ直ぐな想い/9

明日…いや、もう今日か。こんな休日である土曜の早朝から、隼人が家に上がり込んでいた例は無い。 それに今朝あんな喧嘩をしたばかりなのに、明け方にアイツが来る可能性なんて、無いに等しい。 …だけど、…でも。 何故かアイツの顔を思い出したら、急に真島さんと一緒にいることが後ろめたくなった。 …罪悪感。そう、罪悪感で吐き気がして、細胞の隅々まで、黒く染まっていく恐怖感にかられた。 それから俺は、運良く大通りを走っていたタクシーに飛び乗り、急いで自宅へと帰った。 部屋に入ると、そのままベッドに倒れ込む。 疲れと安堵に、ハァ…と大きく息を吐き出すと、背広の胸ポケットからスマホを取り出した。液晶画面に映し出された時間は、もう三時になろうとしていた。 ほぼ無意識にメールボックスを開く。そこには今朝の隼人からの謝罪メール。 「…ごめんなさい。か」 その一言が、やけに心を締め付けた。 「…はぁ。何やってんだ、俺は」 指は、自然とディスプレイを滑っていた。こんな時に、アイツの笑顔を思い出すなんて。 『こんな時間に、気付くはずない…』 頭では否定を繰り返しながら。それでもまるで、まじないでも掛けるように。指は理性とはうらはらに送信ボタンへと向けられた。 『今朝は悪かった』

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